第7章 5。
「あ、はい!ありがとうございます。もしお時間がありましたら、少し休憩なさってください」
すると、茫然としていたは紙袋を手渡されたことで瞬時に我に返り、紙袋を胸に抱えながら私にたどたどしく話しかけ、杖をついてゆっくりと歩き出し、片手で家のドアを開けた。
そして、先に室内に入ると、「どうぞ」と言いながら招き入れてくれた。私は一度深呼吸をし、「お邪魔します」と言ってから、ブーツに付いていた土埃を払い落とし室内に入った。
室内に入ると、ランプの明かりに照らされたリビングが広がっている。広すぎず狭すぎず、四人で過ごすには十分な広さだ。家具は必要最低限しか置かれていないが、閑散としているわけではない。私は部屋の中を見渡し、なぜか妙な懐かしさと安心感を覚えた。
「すみません、狭い家ですが…どうぞ、座ってください。今、お茶を―」
「いや、お茶は大丈夫だ。すぐにお暇するから。気にしないでほしい」
私は先に席に座るように促され、リビングテーブルの椅子に静かに腰を下ろした。そして、お茶を淹れようと準備を始めていたに「君も座ってほしい」と伝えた。
すると、彼女は準備を始めた手を止めて私の方を見ずに頷き、杖をつきゆっくりと歩いてきて、恐る恐る目の前の椅子に腰を下ろした。
向かい合った私たちは何も言えず、目すら合わせることができなかった。たった7年、されど7年という月日は、あの頃のように誰よりも親しい関係だった私たちの間に、大きな分厚い壁を作るには十分な時間だった。しかし、どちらかが口火を切らなければ、何も始まらない。
私は両手をテーブルの上で握りしめ、「ふう」と大袈裟に息を吐いた。私たちに与えられた時間は短い。一秒たりとも無駄にはできないと考えながら、私は意を決して口を開いた。
「改めて、久しぶり。元気にしていた?…って、ごめん…今の君たちをあまり知らない私が言えることではないけれど」
「はい、元気ですよ。先輩も元気そうで良かったです。って…すみません、私も今の先輩の事を何も知らないのに…」
私たちはお互いに同じ事を言い合いながら、顔を見合わせて微笑んだ。