第7章 5。
私はその言葉に思わず息を飲んだ。そして、弾かれるように一度振り返ると、すでに三人の姿はその場から消えており、彼女が託した言葉と私たち二人だけが残されていた。
『母をよろしくお願いします』
私はその言葉を頭の中で反芻し、一度大きく息を吸い込み、吐き出した。しかし、彼女が残した言葉の意味を真に理解するには時間が足りないと感じた。
それでも、彼女が私にあのような言葉を残したことには必ず意味があるはずだ。だからこそ、私は全てに応えられなくても、今できることをしようと思い、笑顔で目の前にいるを見つめた。私の目に映る現在のの姿は、昔と大きな変化は見られなかった。
昔と変わった点と言えば、当時は規則により任務の邪魔にならないように短く切られていた髪が、今では腰まで長く伸び、顔立ちも幼さを潜めて大人っぽくなり、時折、母親の面影を見せる程度だ。
私たちの前から姿を消して7年も経つのだ。少なからず変化があることを覚悟していたが、大して変わっておらず、なぜか私は胸を撫で下ろしていた。
しかし、それは外見のことであり、内面まで変わっていないとは限らない。私はこれから短い時間の中で離れ離れになっていた間に、の心境や性格に変化があるかもしれないと考えたとき、少し恐怖心を抱いてしまった。
それでも、そんな恐怖心に邪魔されて与えられた時間を無駄にはできない。覚悟を決めてきたのだから、どんな彼女でも受け入れる覚悟も決めようと、一度大きく息を吸い込み、深く長く吐き出した。
そして、私がを何も言わずに真っ直ぐ見つめていると、先程リヴたちが持っていた紙袋がの手の中から地面に滑り落ちていった。
今、彼女は身動き一つせず、目の前にいる私を見つめて言葉を失っていた。「信じられない」という思いが瞳に宿り、目を見開いている。私は彼女の様子を見ながら、こめかみを人差し指で掻き、乾いた笑みを浮かべた。
「何をしているの?大切なものなんだから、しっかり持っていないとダメじゃないか」
私はそう言いながら、地面に落ちた紙袋を拾い上げて土埃を払い、身動き一つしない彼女の手にそっと紙袋を渡した。