第5章 3。
そして、「起きてください」と声をかけると、寝ぼけて甘えてくる彼の姿に、これまで以上に愛おしさが募った。しかし、例外もあり、ハンジ先輩だけは遠慮なく声をかけ、気持ち良さそうに眠っていた彼を起こしてしまい、怒られてしまっていた。
そんな日々を送る中で、彼は私に「死ぬな」とは決して言わなかったし、私もその言葉を口にすることはなかった。それでも、お互いに過ごす時間や抱きしめ合い、繋いだ手の温もりから、私たちがそのことを思いやっていることをはっきりと感じることができた。
いつ死ぬかは分からない。しかし、再び共に時間を過ごし、「ただ隣に並んで空を見上げる」という何気ない日常を実現するために、「生きて帰る」と心に強く誓い、生き抜いてきたのだ。
しかし、現実は厳しい。実際、私は死んではいないものの、生きている限り離れないと誓ったにもかかわらず、身勝手な決断を下して彼のもとを離れてしまった。
後悔しても遅いことは数多く存在する。なぜなら、後戻りできないのが現実だからだ。
今更リヴァイに再会する日が来たとしても、どんな顔をして彼に会えばいいのだろう。私はきっとそんな日は来ないし、今もこれから先も、「彼の隣で見上げていた空を、彼のいない場所で見上げることしかできない」という現実の中で生きていくのだろう。と一人で諦めている。
「…さん…お母さん!」
「え…あ…」
「大丈夫?帰ってきたら庭にリヴたちもいないし、部屋の中にも気配がなかったから、ここかなと思ったの。勝手に入ってごめんなさい」
私はマントを胸に抱きしめながら、過去に思いを馳せていた。すると、娘のシイナの声で現実に引き戻された。
「…ううん、大丈夫。あなたが謝る必要はないよ。私が不用心だったから、ごめんね」
彼女は心配そうな表情で私を見つめ、申し訳なさそうに謝った。私も首を振り彼女に謝り、再びマントを胸に抱きしめてから、箱の中にそっとしまい、蓋を閉めて鍵を掛けた。
彼女が私に謝っているのは、私がこの部屋に滅多に人を入れないからだ。調査兵だった頃の物はマントしか残っていない。リヴたちの目に触れることを考えると、心配で仕方がない。
そのため、部屋に入る際は、私かシイナのどちらかが付き添っているため、事情を知っているとはいえ、勝手に入ってしまったことを謝っているのだ。