第5章 3。
すると、リヴァイは何も言わずにその場を立ち上がり、手で制服に着いた土埃を払うと、私に静かに近寄り、目の前で立ち止まった。
「頭を上げろ。俺はお前の上官でも先輩でもねぇ。礼を言われ、頭を下げられるような大したこともしてねぇよ」
すると、彼は私に素っ気なく言い放った。
「…で…でもっ!」
私はその言葉を聞いて咄嗟に頭を上げ、言葉を探しながら彼の顔を見つめた。その時、私が目にしたのは、普段と変わらない鋭い目つきと表情だった。
しかし、私を見つめる彼の瞳は真っ直ぐで、逸らすことができなかった。私たちは目を合わせたまま無言で見つめ合ったが、その時間を苦痛には感じなかった。そのことに私は、内心首を傾げていた。
すると先に、視線を逸らしたのは彼だった。そして何も言わずに、その場を去ろうとして歩き出した。私はお礼を言えたはずなのに、納得できない自分がいることに戸惑い、適切な言葉を見つけられず、その場に立ち尽くしていた。その時だった。
「死ぬこと自体は構わないが、生きることを放棄するな。その判断は、お前自身の命だけじゃねぇ、他に死んでいった奴らの命のためにも、ましてや人類のためにもならねぇよ。人間は、死ぬときには必ず死ぬ。お前も、自分自身で生きることを放棄しなくても、死ぬときは必ず死ぬ。だが、そうでない場合は、ただの無駄死にだ。誇りを持って兵士になって人類に心臓を捧げたんだろうが、死ぬときも誇りを持って死ね」
リヴァイは私に背を向けたままそう言うと、一度だけ顔を振り向けて私を一瞥した。その後、再び顔を前に戻し、大きく息を吐いた。
その時、彼は「…せないがな…」と何かを小さく呟いた。しかし、私はその呟きを聞き取れなかった。その後、彼は何も言わずに歩き始めた。
「…誇りを持って死ぬ…」
私はその場に佇み、彼の言葉を反芻しながら、遠ざかる背中を見つめていた。結局、肝心の「彼があの場にいた理由」を問いかけられなかった。
しかし、そんなことはどうでもいいと感じた。リヴァイは私に教えてくれた。彼が意識して言った言葉ではないかもしれないが、私にとって彼の言葉は兵士として生きていくための「土台」のようなものとなった。