第5章 3。
ただでさえ死亡率が高いのに、彼が自分の身を危険にさらし、多くの仲間の命を犠牲にしてまで帰ってきてほしいとは思えなかった。
確かに、本音を言えば「ずっとそばにいたい、共に生きていきたい。家族3人で生活したい」と心から願っていた。家族3人で生活している光景を何度も想像した。しかし、もし彼が命を落としてしまったら、すべてが無意味になるだろう。そのため、「離れ離れでも生きていればいい」と何度も自分に言い聞かせながら、私は怖気づき、身勝手にも引退後、姿を消すことを選択した。
調査兵団に入団したのは、父の影響だった。私は調査兵団の兵士である父と専業主婦の母と私の三人暮らしだった。父は時折家に帰ると、壁の外や巨人について私によく話してくれた。
しかし、実力のなかった父は早くに殉職し、父の死後、母は私を育てるために働き詰めになり、過労で亡くなった。その後、しばらくの間、母の親戚の家にお世話になり、訓練兵になれる年齢になるとすぐに訓練兵を志願した。
そして、過酷な訓練期間を耐え抜き、無事に卒業できた。成績は上位10位には入れなかったが、順位は気にしていなかった。そして、私はかつて父が所属していた調査兵団に志願した。昔、父からさまざまな話を聞いていた壁の外の世界に興味を持ち、調査兵団への入団を決意した。
私が現役の兵士だった頃に抱いた感情は、一言では表現できない。兵士になった時点で、命を捧げることに後悔はなかった。
しかし、現実の壁の外は想像以上に過酷で残酷な世界だった。父が話していた事実とは大きく異なり、昔、父はまだ幼かった私を怖がらせないために、現実を誤魔化して話していた部分が多かったのだと実感した。
そして、このような過酷な現場で父が任務に当たり、亡くなったのだと改めて理解したとき、自身の考えの甘さや下した決断、決断した覚悟を心から後悔した。自ら決断して調査兵団の兵士として心臓を捧げたにもかかわらず、壁外に赴くと、現場の悲惨な状況を目の当たりにし、捧げたはずの心臓がひどく恋しくなった。
目の前で、何人もの世話になった上官や先輩、そして仲の良かった同期が無残に命を落としていくのを見ていた。