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空を見上げた。

第19章 17。



それでも、「時間よ巻き戻れ」と心から願っても、それは決して叶わない願いだ。

これまでの「余裕がなく情けない自分、そんな自分を嫌いになっていた時間」があったからこそ、「今日」という、何度も夢に見て望んできた瞬間を手にすることができた。

何年も探し、愛し続けたに触れ、その声を聞くことができた。二人で過ごした時間は短かったが、家族5人で過ごした時間もかけがえのないものであった。

そして、これから先、二度と手放すことはないだろう。そもそも、初めから手放す気は毛頭ない。確かにと再会し、話し合うまでは不安を抱いていたが、今はその不安さえも可愛らしいものだったと思える。

俺は「今朝、抱いていた不安よりも、これからのことを考えるたびに感じる『不安』の方が厄介だろう」と思いながら顔をしかめた。しかし、それすら乗り越えなければならない。

目を背け、責任を放棄することは簡単だが、それをや家族が望んでいないことは理解している。

次にあの家のドアを開けるときは、すべての責任を全うし、自分にできる限りのことを尽くして成すべきことを果たした後でなければならない。

どんなに時間がかかっても、約束はできなくても、や家族が「帰りを待っていてくれる」と思い、「おかえりなさい」と笑顔を向けてくれる瞬間を想像すれば、何でもできる気がしていた。

俺は、そんなことを思いながら「単純だ」と心の中で呟き、そんな自分に思わず笑ってしまいそうになり、そっと口元を手で覆った。

再び静かに寝静まっている周囲に視線を巡らせ、手綱を握り締め、軽く叩いて立ち止まっていた馬の歩みを再開させた。ゆっくりと歩く馬の背の揺れが心地よい。

俺は居心地の良さを感じながら、今日一日を振り返るためにまぶたを閉じた。

しかし、振り返ろうとしても、思うように思い出せなかった。俺にとって、これまで経験したことのない出来事が続いていたからだ。

それでも、最も鮮明に俺の脳裏に残っている記憶は、他愛なく何気ないありふれた日常だった。

息子たちの喧嘩を目の当たりにし、収拾がつかなくなった状況に仲裁する娘の姿には、疲労感が滲んでいた場面があった。

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