第5章 3。
そして、杖を突いて歩き室内の衣服がしまってある引き出しのそばに歩み寄り、隠すように置かれた古びた小さな箱を取り出した。
その箱は両手に収まるほどの大きさだ。私はその箱を片手に持ち、杖を突きながらベッドへ向かい、杖を側に立てかけて腰を下ろした。一度大きく深呼吸をしてから、震える手で鍵を持ち、鍵穴へ差し込んだ。
そして、鍵をゆっくり回すと、「カチャリ」と小さな音を立てて鍵が開いた。 恐る恐る、震える両手で箱のふたを開けた。私は箱の中身を覗き、一瞬躊躇したが、意を決して震える手で中身を取り出すと、思わず顔をしかめた。
最近はこの箱に触れることもなかったが、時折、誰もいない時間を見計らって箱を取り出し、中身を確認していた。そのため、久しぶりにこうして箱から出して手に取ると、一瞬息を呑み、緊張感が高まり、心拍数が上がっていくのを感じた。そして、それを誤魔化すように、震えるまぶたを閉じた。
今、私の手元にあるのは、私がかつて調査兵団の兵士だった頃に羽織っていた深い緑色のマントだ。背中には自由の象徴である「自由の翼」の刺繍が施されている。 これは、かつて私が「人類に心臓を捧げた証」でもあった。
現在、捧げた心臓は私の胸の中に戻り、このマントは無用の長物となっている。このマントを脱いでから、すでに7年の月日が経過した。
しかし、ふとした時に手に取ると、あの頃、常に見て体験していた光景や抱いていた感情が鮮明に脳裏に浮かび上がる。 兵士だった頃の記憶は、何年経っても忘れることができず、今でも時折夢に見る。兵士を辞めた直後は、肩の荷が下りた反動で精神的にひどく不安定になり、フラッシュバックを頻繁に起こした。
そんな日々を何年も過ごす中で、「この先、このマントを羽織ることは二度とないだろう。もう人類の役には立てないのだ」と思いながら、私は少し切なさを抱きながら過ごしてきた。
洗濯はしてあるものの、所々で糸がほつれ、破れており、血痕が付着している箇所も残っていた。それでも、この生活が成り立っている現実の中には、深く傷つけ、迷惑をかけた人が少なからずいる。
そのため、これまで私が下した決断に後悔はないし、後悔するべきではないと思っている。 そして、震える手でマントを持ち、一度胸に強く抱きしめ、大きく息を吸い込んだ。