第18章 16。
ただ強く抱きしめられたまま、俺は泣き続けていた。その中で、ルアと男性が同じようにしゃがみ込み、俺たちの様子を見守っている気配を感じていた。
それでも、怒りでどうにかなりそうな頭の中で、俺の泣き声と共にかすかに母さんが「ごめんね」と小さく震えた声で何度も謝りながら鼻を啜り、泣いている気配を感じていた。
抱きしめられたことで、俺の耳には早鐘のように動く母さんの心臓の音が聞こえていた。そして、抱きしめられたことに心から安心感を抱く自分に戸惑いながらも、久しぶりに強く母さんの温もりを全身で感じ、受け止めて泣き続けた。
――――。
俺はしばらくの間、母さんに抱きしめられながら泣き続けていた。しかし、久しぶりに抱きしめられたことと、やっと「隠し事」について聞けたことで安心した俺は、いつの間にか泣き止んでいた。
そして、そんな自分のことを「単純な生き物だ」と感じた。どんなに腹が立っていても、何をされても、大好きな人への思いは変わらない。それはこの先も変わらないのだろう。
姉さんやルアとは血の繋がりはないが、血の繋がり以上の絆で結ばれていると確信している。そのため、どんなに怒られても喧嘩をしても、「嫌いだ」と思ったことは一度もない。
怒られたり喧嘩をするたびに、仲直りをした後は「怒られた理由」や「喧嘩の理由」を忘れてしまうことが多かった。
そして、いつの間にか泣き止み落ち着きを取り戻した俺は今、目の前に広がる光景に気まずさを感じていた。
俺たちは今、静かなリビングで4人でテーブルを囲んでいる。
俺の隣にはルアが座り、目の前には男性がいて、その隣には母さんが座っている。
目の前に座る男性は、椅子の背もたれに着ていたジャケットを脱いで掛けて、その上から腕をかけながら、母さんが淹れた紅茶を母さんのティーカップで静かにカップの縁を掴んで飲んでいる。
その様子を恐る恐る伺っている俺を、母さんは微笑みながら見守っており、俺の隣に座っているルアは終始「分からない」といった様子で首を傾げていた。
この時間が何なのか…と疑問に思っているのは、俺とルアだけで、母さんと男性は自然にその場に溶け込んでいた。俺たちはその光景を見つめることしかできず、ただ顔を見合わせるだけだった。