第17章 15。
今日、ここを訪れる前にエルヴィンに問いかけた『この先のことを考えれば会わないほうがいい』という言葉に嘘はない。あの時は本当に迷っていた。しかし、現在、の存在を身近に感じていると、「会いに来てよかった」と心から思える。
それでも、不安が全くないわけではない。実際、「幸せだ」と実感している一方で、それ以上の「恐怖心」と「不安感」が心の中を満たし、渦巻いていた。
「……」
「はい…」
俺は再び名前を呼び、一度、まぶたを閉じた。俺の言葉に返事をする声は非常に震えていて、か細く、小さかった。何を言われるのか怯える様子が痛いほど伝わってくる。
その様子を感じ、声を聞き、「」という温もりを感じてしまい、この先、何を言えば良いのか分からなくなってしまった。
俺はこの壁の中の人類に心臓を捧げた兵士だ。その中で、いつ命を落とすことになるのか自分でも分からず、状況も把握できていない。そう考えながら、思わず嫌な考えが脳裏に浮かび、自分の死に際を想像してしまう。
そして、その時そばにや家族がいない可能性が高いと考えたとき、軽々しく言葉を発することはできないと思った。
命を落とす覚悟はできている。エルヴィンにも伝えたが、後先を考えず身勝手に行動する「昔」と「現在」とでは立場が異なる。
それでも、俺が守っている壁の中の人類の命や生活には「や家族」も含まれている。再会し、「生きている」と確認できた今、俺は何かあれば命を懸けてできる限り行動するつもりだ。
それでも、約束はできず、確証もない。そんな状況の中で、自分ができる限りのことをすると心の中で強く誓った。しかし、実際には思うように物事は進まない。それが「生きていく」ということなのだ。
「お前も分かっていると思うが、今の俺は人の上に立つ立場になった。だから、エルヴィンや仲間の命が危険にさらされているときは、自分の命を賭けてでも行動しなければならない。」
「…はぃ…」
俺はそう言い、閉じていたまぶたを開いて、の両手をしっかりと握りしめた。
そして、の目をじっと見つめ、顔を真っ直ぐ見た。の声は相変わらず震えており、か細く、非常に小さかった。「はい」という言葉を必死に全身から絞り出しているように感じた。