第17章 15。
すると、は俯いていた顔を瞬時に上げて驚いた。その反応を横目で見て、思わず少し口角が上がってしまった。
「ああ、だからお前も俺に気づいたんだろ?」
「それはそうですが…恥ずかしいです」
「どこが恥ずかしいんだ。良い母親だろうが」
息子たちの様子を伺っていたとはいえ、二人が俺の気配に気づくはずがない。が俺に気が付いたのは、彼女が姿を現し、気配を消すこともなく佇み、目を奪われていたからだ。
「…いい母親…ですか…そんなことはありません。隠し事ばかりで、肝心なところはいつも他人に任せてばかりで…」
「それでも、叱ってくれる人がいるのは良いことだ。それに、もう隠し事をする必要はない。俺がそばにいるから、今日、しっかり向き合ってみろ」
俺がそう言うと、は不安そうな表情を浮かべ、眉をひそめた。俺はその表情を真っ直ぐに見つめ、「大丈夫だ」と言いながら、手を強く握った。
しかし、どんな理由であれ、隠し事をされていたという事実には腹が立つだろう。きっと幼いながらも、そのことを感じ取っている部分があるはずだ。それでも、この先共に過ごしていくためには「隠し事」は必要なく、無意味だ。
これまでが何も話してこなかったという事実は、俺自身も完全には理解できていない。そのため、5歳の子どもにとってはさらに理解が難しいだろう。
それでも、理解できないことをそのままにしておくよりも、相手はどんな形であれ言葉を求めているはずだ。子どもにとって母親は何よりも代え難い存在である。
そのため、大人の都合を押し付けてしまったことを謝罪し、真摯に向き合い、相手の気持ちを受け入れることが重要だ。まずは一つずつ解決していけば良いだろう。
俺はそう思いながら、全身の力を抜いての肩にもたれかかった。すると、同じように緊張していたの全身の力も抜けていくように感じた。
そして、再び二人で寄り添い、ベンチに腰掛けながら青い空を見上げる。とても良い天気だ。風も心地よく、中途半端に干してある洗濯物が風に揺られ、穏やかに靡いていた。