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空を見上げた。

第17章 15。



すると、が杖を突いて庭に入ってきたその瞬間、二人の言い争いを呆れた様子で窘めながら、しっかりと俺たちの目が合った。

それも無理はない。先ほどまで気配を殺して隠れ、様子を伺っていたが、が姿を現してからは、気配を消すことさえ忘れ、その場に佇んでいたのだ。

「母さん?」
「お母さん?大丈夫」
「ふ、二人とも、家の中に入りなさい。母さんが出て来ていいと言うまで、出てきてはいけません」

は俺に視線を向けたまま、動揺している姿を息子たちに悟られないよう毅然とした態度でそう言った。しかし、その声は震えており、さらに二人は不思議そうに首を傾げている。

俺の全身の意識や感覚、そして視線が全ての姿に引き寄せられ、意識が逸れてしまい、に近寄っていた息子たちの姿に気を留める余裕すら失っていた。

「「何で??」」
「いいから、早く入りなさい!」

しかし、二人は突然そのようなことを言われたことに戸惑い、首を傾げた。それでも、母親の様子が普段と異なっていることに気づいたのだろうか、何も言わずに家の中に戻っていった。そして、二人がその場から姿を消したのを確認して、俺は勢いよく走り出した。

「(もう、いい…なりふり構っていられるか)」

そう吐き捨てるように心の中で呟き、の元まで駆け寄ったそして、俺の存在に驚き呆然として身動き一つしないを強く抱きしめた。ああ、やっと…やっとだ。

俺は何も言わずただ強く抱きしめた。存在を体温を、今、目の前にある現実が本物であることを確かめるように。再び、夢のようにかき消えてしまわないように強く抱きしめた。
そして、腕の中にある存在と温もりを感じ、歓喜と共に切なさが胸の中を支配していく。

「どう…どうして…ここに…?どうして…」
「…うるせぇ…」

抱きしめられたは、壊れたように同じことを繰り返し俺に問いかけてきた。俺は抱きしめたまま唸るように一言呟き、それを一蹴した。カタンと地面にが持っていた杖が倒れる音が聞こえた。俺はその音を聞きながら、一度まぶたを閉じた。

そして、強い風が一度俺たちの間を吹き抜けていった。それはまるで、俺たちを優しく包み込みながら過ぎ去っていくかのようだった。

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