第17章 15。
俺はまぶたを閉じたまま、天気が良く心地よい風が吹き抜けるその場で、他愛のない「幸せ」を噛みしめるように深呼吸を繰り返していた。いい加減聞き飽きたと思う。同じ内容の重みのない口喧嘩だ。
「(それにしても、俺のガキは随分と生意気だな)」
俺は心の中で人知れずそう呟き、閉じていたまぶたをそっと開いた。その瞬間、目の前の光景に驚き、言葉を失った。
「リヴ!いい加減にしなさい!毎日何度同じことを注意されたら気が済むの!?手伝いなさい!」
「げぇっ!」
「「げぇっ!」じゃない!手伝いなさい!」
その場に、懐かしく聞き慣れた声が響き、俺の鼓膜を打った。その瞬間、体が自然と反応し、思わずその場から走り出そうとした。しかし、奥歯をかみしめ両手を握り締めて必死に耐えながら、声の主であるに視線を向けた。
は庭の入口で杖を突き、眉をひそめて息子の言動を叱っている。その姿は、俺の知る彼女とは異なり、立派な母親の姿だった。そして、叱られている息子は非常に不満そうに文句を言っている。
「だって、俺今、暇じゃないもん!」
「何を言っているの!毎日、毎日「暇だ」って口癖のように言っているでしょう?!」
「いつもは暇でも、今は暇じゃない!」
「手伝いたくないからって調子のいいこと言わないの!いいから、手伝いなさい!」
「ちゃぇっ」
は息子の言い分に負けじと反論し、杖を持っていない方の手を腰に当てた。すると、俺は息子が不満そうにその場から立ち上がり、洗濯物を干している少年に近づく気配を感じた。
相変わらず、二人の姿は洗濯物の陰に隠れていて確認できないが、何やら言い争っている様子が伺えた。
「ほら、怒られてやんのっ」
「うるさい!いい子ぶりやがって!」
「今はいい子だもん」
「お前のそういうところ本当に嫌い!」
その言い争いは次第にヒートアップし、「洗濯物を干す」という本来の目的を忘れているようだった。
俺はその光景を見て、「やはり、ガキだな」と心の中で呟き、その場に佇んでいた。目の前に広がる光景を視界に収め、そのすべてを脳裏に焼き付ける。
瞬きをするのも惜しいと思った。余計なことは何も考えられず、目の前の現実を受け入れることに必死になり、身動き一つ取れなくなっていた。
「ほら、もういい加減にしな…ぇ…な…ぜ?」