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空を見上げた。

第14章 12。



それでも、今、生きているのに、はそばにいない。その事実は、死んでそばにいないことと何が違うのだろうか?俺はもう、何が正しくて何が間違っているのか判断する材料を見つけられなかった。

『もし、生きて帰ってこれたなら、また、二人で空を見上げたいです。ただ、それだけでいい』

俺はそう思いながらため息を吐いた。すると突然、脳内にの笑顔と、当時、よくが俺に言っていた言葉が浮かび上がった。

そして俺は「あぁ、そうか」と心の中で呟いた。「なぜこの言葉を忘れていたのだろう」と思いながら部屋の中に差し込む優しい日差しが当たる窓に視線を移した。

そして痛む片足を庇いながら立ち上がり、足を引きずるようにして窓に近づき、窓を開けた。爽やかで暖かい風が俺の体を吹き抜け、室内に入り込んだ。

そして、俺は窓際に立ち、「二人の場所」である「木」を見つめた。現在、その木は多くの草木に埋もれており、意識して探さなければ見分けがつかない、何の変哲もないただの「木」だ。

それでも、俺にとって、この残酷な世界で生き抜いていくための道標のような存在だった。あの「木」の元に帰れば、再びと過ごすことができる。はいつも多くを望まず、あの「木」の下で「二人で空を見上げる」ことだけを望んでいた。

これまで、「が生きているか死んでいるか」といったことばかりに気を取られ、些細なことを見落としていた。

しかし、気を配れば、いつだって俺たちの思いは繋がっていたのだ。その事実を胸に抱いたとき、消えかけていた心の灯が再び灯り始めていくように感じ、片手で胸元を掴んだ。

掌に自分の鼓動が伝わってくる。「俺は生きている」と思い、まぶたを閉じて、今はまだ返答はないが「…」と小さく名前を呟いた。そして、この先、この呟きに対する返答を聞くために、自分にできることをしようと思った。

二人で共に空を見上げていたとき、はいつも「他には何もいらない」と言わんばかりに穏やかな雰囲気を漂わせて笑っていた。

毎日「いつ死ぬのか」と恐怖心を抱えながらも、俺のそばにいてくれた。誰だって死ぬことは恐ろしいものであり、大切な人を残していくことは、どれだけ覚悟を積んでも最後には後悔が募り、脳裏に浮かぶものだろう。

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