第14章 12。
しかし、この男がこのような状況で冗談を言うほど空気が読めない人物であることは、誰よりも理解している。理解はしていても、脳内には処理するにはあまりに大きすぎる情報があり、俺は口元を片手で覆いながら拳銃から手を離し、数歩後退した。
「何を…何をバカなことを…あいつが…俺のガキを?本気で言って…」
「あぁ、信じられなくても無理はないが、全て本当のことだ。このことを知っているのは、俺とハンジだけだ。キース団長は知らなかった」
俺は数歩後退しながら、エルヴィンの言っている言葉に「俺は何を聞かされているんだ」と思った。未だに脳内で情報が処理されず、半分パニックに陥っていたため、思わず笑ってしまいそうになった。
エルヴィンは俺が手を離した拳銃を窓際に置いてある机の上に置いて腕を組んだ。そして、真剣な表情と重みのある声から紡ぎだされる言葉によって、今俺が聞かされていることは全て事実であると理解できた。
やっと少しずつ脳内が情報を処理し始め、現実を理解した瞬間、俺はその場で膝から力が抜け、崩れ落ちるように力なく座り込んだ。そして、再び激しい目眩、頭痛、耳鳴りに襲われた。
当時、が兵士を辞めた理由は、当時の団長であったキースから「壁外調査で巨人襲われた際、片脚を負傷し、前線復帰は不可能」と告げられたことだった。
その事実は自身やハンジ、エルヴィンからも聞かされていたため、俺はもうを死地に向かわせずに済むと安堵していた。
しかし、俺に待ち受けていた現実は「は兵士を辞めた後、突如、何も告げずに俺たちの前から姿を消した」ということだった。
当時、俺は時間を見つけては思い当たる場所を探し回り、エルヴィンやハンジに何度も「他に何か聞いていないか」と尋ねた。しかし、二人はそのたびに多くを語らず、首を横に振った。
どれだけ探し回ってもの姿は見つからなかった。それでも「どこかで必ず生きている」と信じていたため、諦めることができなかった。
のことを知る人々にも手当たり次第聞き回ったが、自体は目立つ兵士ではなかったため、有益な情報も得られなかった。