第12章 10。
全ての事情や情報を知っているわけではないが、何か一つは聞かされているはずだ。も滅多に俺に隠し事をすることはなかったが、にも俺に言えないことは必ず存在する。
それならば、誰よりも親しいハンジだけが知らされていたとしても、何もおかしいことはない。
「確かめる以外の選択肢はねぇだろうが…」
俺は低い声で唸るように呟き、片手で顔を覆ったまま、もう一方の手で窓の取っ手を離して、強く拳を握り窓枠に叩きつけた。
取っ手を離したことで窓は強風に煽られ、ガタガタと激しい音を立てた。そして拳を叩きつけた衝撃で、窓枠は不快な音を立てて軋んだ。今、俺の心の中には、窓の外で吹き荒れる強風のように、強く不快な風が吹いているように感じていた。それが全神経を逆撫でしている。
確かめる時間があり、その必要性は私にとって何よりも最優先事項だ。長年探し求め、想い続けたの存在がついに確認できる。躊躇う必要はない。
が何のために俺に「何」を隠しているのか分からない。それでも、ハンジの言葉を思い出した今、ハンジを問い詰めれば、に関する手がかりを少しでも得られるかもしれない。
俺は早鐘のように脈打つ心臓に不気味な感覚を抱きながら、奥歯をきつく噛みしめ、唇を噛んだ。唇を噛んだ拍子に切れたのか、じわりと口の中に鉄の味が広がっていく。しかし、そんなことを気にしている余裕は俺には残っていなかった。
窓の外に視線を向け、鈍色の空を見上げた。視線の先に映る空は、先ほどとは一変し、一層分厚い雲に覆われていた。強風と共に次々と雲が流れていく。
その風や雲は、今の自分自身を表しているようで、何とも分かりやすいと自嘲気味に小さく口角を上げた。雨が降り始めるのか、先程より湿度が増し、かすかに雨の匂いが漂っている。
そして、遥か遠くで雷鳴が轟く音が聞こえた気がした。
今、俺の耳には風の音か雷鳴か判断できないが、延々と鳴り響いていて止まることを知らない。自然と空を見上げる目元に力が入っていた。