第12章 10。
そのため、壁外調査から無事に帰還したとしても、見知った仲間が欠けているという現実を当たり前の日常として受け入れ、割り切らなければならない。
「あの…兵長、聞こえていますか?」
「…あぁ…悪い。何だ…」
「いや、紅茶のお代わりはいかがでしょうか?」
「…あぁ、もらう」
俺はそんなことを一人で考え、思いに耽っていた。エレンが静かに俺に問いかけてきたことで、意識が引き戻された。
そして、手にしていたマグカップの中身が空であることに気づいたので、それを静かにエレンに差し出した。
エレンはカップを受け取り、静かに紅茶を淹れている。彼に視線を向けると、時折切ない表情を浮かべ、哀愁を漂わせている様子が見て取れた。何か声をかけて気の利いた言葉をかけたい気持ちはある。しかし、今は何も言わずにそっとしておいた方が良いだろう。
俺がこれまで調査兵として任務に従事してきた中で感じたことは、調査兵の活動は協力プレイのように見えながら、実際には個人プレイであるということだ。
確かに、仲間と協力して巨人を討伐することはあるし、お互いに助け合うことが壁外では何よりも重要である。
しかし、任務を遂行する過程で仲間が目の前で巨人に喰われることもある。そして、自分も同じ運命を辿る可能性がある。どんな任務内容であっても、常に「最後」は一人なのだ。
どんなに冷静に状況を見極め、判断を下しても、予想外の事態が必ず発生するのは当然である。その中で、どんな時でも「絶対」という確証のない現実の中で任務を遂行することを「ただ無駄に死ぬだけの行動」と考える人は多い。
しかし、同じ調査兵として、これまでに命を落とした仲間や、エレンを守るために命を捧げた班のメンバーの死は誇り高いものであり、決して無駄ではなかったと俺は思っている。
今回の壁外調査では、エレンだけでなく他の104期の新兵たちも、想像以上に調査兵の任務の過酷さを実感したことだろう。
そのため、毎回壁外から帰還するたびに「大丈夫か」と優しい言葉をかけることは、今後彼らが調査兵として、また一兵士として成長する上で妨げになるかもしれない。