• テキストサイズ

【YOI男主】騎馬の民へ捧ぐ幸運【男主×オタベック】

第1章 騎馬の民へ捧ぐ幸運


「これから練習だろ。送ろうか?」
「車で来たから、大丈夫だ」
それでも駐車場まで一緒に行くよ、とオタベックの左手を軽く引いた守道だったが、ふと彼の手首の辺りを指で触り始めた。
「…どうしたんだ?」
「あ、いや…随分と脈がお早いようで」
「また、そうやって人をからかって」
「あはは」
おどけながら手を離した守道がそれ以上何もしてこなかったので、オタベックはそのまま教室を後にした。

カザフナショナルを危なげなく優勝し、同時に四大陸と世界選手権の切符を手に入れたオタベックは、客席の片隅で見守る守道に気付くと、いつもより何割増しかの笑顔で返した。
最近、スケオタやファンの間で「オタベックは随分と雰囲気や表情が柔らかくなった」「さては、誰か良い人でも?」という噂がまことしやかに流れていたが、インタビューでそれらに関する質問を受けても「もうずっと、スケートに恋をしています。残念ながら、片思いの場合が多いですが」と、かわしていた。
友人のユーリ・プリセツキーをはじめ、海外のスケーター達からも労いのメッセージがスマホに届き、暫しそれらに返事をしていたが、やがて一息つくと、オタベックは会場の入口付近で待っていた守道の元へ向かった。
「控室に来てくれて良かったのに」
「スケート関係者も多くいるのに、そこまで図々しくはなれないよ」
オタベックから荷物を預かった守道は、会場内の駐車場へと向かう。
車で会場を出てから、守道は「優勝おめでとう」とオタベックに祝福の言葉をかけた。
「腰も大丈夫そうだね」
「色々と気を付けるようになってから、随分良くなったんだ。『サユリ』にも感謝しないと」
『サユリ』とは、日本の勝生勇利と同期だった元スケーターの事で、現在は振付師として、国内外で少しずつ評価の声が高まっていた。
また、彼は守道の日本の大学時代の先輩でもあり、昨シーズン腰痛に悩まされていたオタベックの事情を知ると、自分のコーチだった男を通じて、日本のメーカーからアスリート用の医療機器を紹介、融通してくれたのである。
「俺は恵まれている。色々な人達の支えがあるから、リンクに立つ事が出来る」
「そうだね」
「でも、一番の支えは貴方だ」
さり気ない言葉の爆弾に、守道は思わず面食らった。
/ 14ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp