• テキストサイズ

【YOI男主】騎馬の民へ捧ぐ幸運【男主×オタベック】

第1章 騎馬の民へ捧ぐ幸運


空になった食器の前で俯くオタベックを見ていた守道は、数秒の沈黙の後で口を開いた。
「何で俺が怒ったか判る?」
「…貴方の言い付けを破ったから」
「それもあるけど…俺が嫌だったのは、俺の知らない所で君が危険な目に遭った事だ。今回は大事に至らなかったけど、もしも、俺のバイクに乗った君が怪我を負ったとしたら、俺は絶対に自分を許せない」
「貴方のせいじゃない。あれは、俺の不注意で…」
「俺が一緒なら多分防げたし、何より君から鍵を回収しなかった俺が一番迂闊だったんだ。君は、内緒で俺のバイクに乗って楽しかった?」
そう問われたオタベックは一瞬口ごもったが、胸の辺りからジリジリと沸き起こってきた感情を持て余しながら、言葉を続けた。
「最初はちょっと楽しかった。でも…途中から急に気持ちが冷めていった」
「何故?」
「…貴方が傍にいないから。貴方がロシアや日本にいた時よりも距離はずっと近いのに、会えなくて…」
昔ならともかく今は、守道がオタベックの心の中に強く存在し、最早「忙しいのだから」という言葉では誤魔化せなくなっていたのだ。
「そんな寂しさを紛らわそうと、貴方のバイクで気晴らしするつもりが、どんどん貴方の事ばかり考えて…浮ついた気持ちでバイクを運転したら、どうなるかなんて判ってた筈なのに…っ」
肩を震わせ始めたオタベックに近寄ると、守道は彼の身体を抱き竦めた。
「君が無事で本当に良かった。万が一の事があったら、きっと君より先に俺の心臓が止まってしまう」
「…っ」
「頼むから、もう二度と俺に黙ってバイクに乗ろうとしないでくれ。これまで寂しい想いをさせてすまなかった」
オタベックの競技活動にかこつけて、守道も「いつでも会えるから」と少々怠惰になっていたのだ。
この恋人の内面がずっと繊細なのは、彼が過去に負った傷も含めて知っていたというのに。
己の胸に顔を押し付けて離れないオタベックの背を撫ぜながら、守道は耳元で優しく囁く。
「これからは、もう少しちゃんと君との時間を作るよ。俺だって、同じ気持ちだったのにな…許してくれ、オタベック」
「…俺の方こそごめんなさい、守道」

何度目かのキスの後で、守道の手がパーカーのファスナーにかかったが、オタベックはそのまま彼に身を委ねていた。
/ 14ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp