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【YOI男主】騎馬の民へ捧ぐ幸運【男主×オタベック】

第1章 騎馬の民へ捧ぐ幸運


守道の静かな怒りを孕んだ瞳を見て、オタベックは、いっそ感情任せに責め立てられたり怒鳴られた方がましな心境に陥っていた。
「そんなに俺の言ってる事は理不尽?競技に集中しなきゃいけない時期なんだから、優先順位やセーブすべきものは、君自身で見極めなきゃいけないのに判らなかったの?」
守道に尋ねられたオタベックは、首を横に振る。
立ちゴケとはいえ、場合によっては倒れたバイクに足や身体を挟まれたり、部品等が刺さって大怪我をする事もある。
今回のアクシデントは、他ならぬ自分の慢心が招いたものだと痛感していたからだ。
自業自得とはいえ、すっかり意気消沈してしまっているオタベックを見ると、守道はもう一度口を開いた。
「…でも、俺にすぐ正直に打ち明けてきた事だけは評価するよ。本当に何処も怪我してないんだね?」
重ねての質問に、オタベックは小さく頷く。
「俺が悪かった。バイクの修理を…」
「見た所傷以外に問題なさそうだし、こっちでやるからいい」
修理代の弁償をさせて欲しい旨を告げようとするオタベックを遮ると、守道は「俺のバイクの鍵を返して」と、彼の前に手を差し出した。
肯定以外の返事を許さないといった守道の語気と真剣な眼差しに、オタベックは言う通りにする。
オタベックからスペアキーを回収した守道は、鍵と一緒にぶら下がっているテディベアのキーホルダーに一瞬だけ表情を緩めかけだが、すぐに我に返ると手の中でそれを握り込む。
「判ってると思うけど、当分バイクは禁止だよ。どの道これから益々寒くなるから、丁度良かったのかもな」
暖房機がついているとはいえ、初冬のアルマトイの冷気は、ガレージ内の2人を容赦なく突き刺してくる。
「…この話はここまでだ。明日も練習だろ?身体、冷やさないようにね」
「守道。せめて、ウチでお茶でも…」
「悪いけど今日は遠慮するよ。じゃあ」
守道のアパルトマンと、オタベックの自宅は近い位置にあるのだが、今の自分達の間には、例えようもない隔たりがあるように感じる。
守道の背中を見送りながら、オタベックは軽く握った拳を、己の頭にコツリと打ち付けた。
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