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【YOI男主】騎馬の民へ捧ぐ幸運【男主×オタベック】

第1章 騎馬の民へ捧ぐ幸運


驚愕や困惑、その他様々な感情に瞳を潤ませているオタベックの前に跪いた守道は、静かに言葉を続ける。
「…前にも言ったけど、俺はこれまでずっと『自分の欲しい物は手に入らない』って、諦めたフリでやり過ごしてばかりいた。でも君と知り合って、初めて離したくないと思う存在が出来たんだ」
幼い頃に実の両親を事故で亡くしてから、守道は、何処か心に言いようのない虚しさを抱えながら生きてきた。
詮無き事だと無理やり理性で納得させ、自分はこの世の誰からも必要とはされていないと思い込む事で、人生の傍観者に徹しようとしていた。
だがこの異国の青年は、そんな自分に「他人の気持ちを、貴方が勝手な自己完結で否定しているだけだ」と、正面からぶつかってきた。
『英雄』として祖国の希望となる偉大な存在の裏で、人知れず深い傷を抱え続けてきたオタベックに、若干の似た者同士的な感情も含めて、守道は強く惹かれたのだった。
ほんの少しだけ、彼の弱みにつけ込むような真似をしたのは否めない。
しかし、それ程までに守道は、オタベックを心の底から欲しいと思ったのだ。
「昔の俺なら、とうに尻尾巻いて退散しただろうよ。恐れ多くも一国の英雄に対して、芥の異邦人がとんでもない真似をしでかしてる」
「守道…」
「…例えこの関係が仮初めのもので、いつか君が別の誰かと恋に落ち、その人と新たな家庭を作っていったとしても、俺はそれでも良いと思ってる。英雄の描くリンクの建築士として、あるいは友人として君の傍にいられるのなら」
守道の呟きを聞いて、オタベックは激しく首を横に振る。
同時に、瞳に涙を溢れさせながら抗議の視線を向けて来た彼に、守道は僅かに肩を竦めた。
「そうやって、本音を隠そうとするのはもう止めてくれ。俺は、貴方の本当の気持ちが知りたい」
「なら、俺が今こうして君の前で跪いている意味は判るね?」
「!」
「これが、これからの君との事に対する俺の覚悟と正直な想い。後は君次第だ。決心がつかなければ、自分で着けると良い。だけど…もし君が、俺と同じ気持ちでいるのなら…」
「──いつも言ってるだろう?俺は、貴方じゃなきゃ嫌だって」
守道の真摯な瞳と言葉に、オタベックは新たな涙で頬を濡らしながらも、迷わず己の左手を彼の前に差し出した。
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