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【YOI】銀盤の王と漆黒の王子【男主&勇ヴィク】

第3章 銀盤の王と漆黒の王子


「俺は、結果に怒ってるんじゃない。お前の今日の試合内容について怒ってるんだ」
表彰式が終わった後も、会場の片隅で項垂れている勇利に容赦ない叱責を繰り返すヴィクトルの姿を、周囲は遠巻きに眺めていた。

ユーロ選手権を危なげなく優勝という形で終えて日も浅い中、ヴィクトルは今度は勇利の四大陸選手権に、コーチとして帯同していた。
SPを1位で通過した勇利だったが、FS終盤で普段なら何でもないステップの最中にエッジを氷にひっかけ、その後の要素であったジャンプを回り切れずにステップアウトというミスを犯してしまった。
結果、FSでSBをマークしたJJことカナダのジャン・ジャック・ルロワに逆転負けを許してしまい、表彰台には立てたものの屈辱的な2位に終わったのである。

「たかが1回俺に勝ったくらいで、いい気になってない?今度あんな舐めた演技しようものなら、何も教えないからね」
「いい気になんて、なってないよっ!」
ヴィクトルの言葉に思わずいきり立つ勇利だったが、滅多に見せないヴィクトルの静かに激怒している様子に気付くと、眉根を下げた。
「…もう二度としない。ごめん、ヴィクトル」
「反省してるなら、この先の試合でちゃんと俺に証明してみせるんだね」
「うん。…有難うございます、コーチ」
何気ない勇利の返事に、ヴィクトルは一瞬だけ言葉につまりかけたが、「普段はコーチなんて呼ばないくせに」と淡々と応えた後で、勇利に背を向けた。

ヴィクトルは、ヤコフや周囲の反対を押し切って勇利に帯同して本当に良かったと思っていた。
昨年のGPFで初めて自分を下した事と、試合や練習の都合上離れ離れになるのが増えてきた事から、大きな大会を前に勇利の微妙な気の緩みを危惧していたのだ。
調子の良い時ほど気を引き締めてかからないと、あっという間に足元をすくわれてしまうのは、ヴィクトル自身も過去に覚えがあった。
まだまだ勇利は、これからもっと世界で活躍する事ができるのだから、自ら些末な綻びを広げるような真似をして欲しくない。
「…俺はね、俺と一緒に強くなった最高のお前と、最高の勝負がしたいんだ」
コーチとしても選手としても、こんな最高の贅沢を味わえるのは、あと僅か。
「勇利、全力でぶつかっておいで。俺も、全力で応えるから」
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