第9章 【石田三成】待てば甘露の日和あり
桜の下に佇む、その人と目が合った――その瞬間から。
私でも感じられる程の、びりびりとした空気に一帯が包まれた様な感覚。
同じ様に感じたらしい、三成くんがすっと私の前に立ちはだかる様に移動した。
「…越後の龍、上杉謙信様ですね。どうしてこちらに?」
その言葉を聞いて、もう一度佇む彼に目を戻す。
上杉謙信、と呼ばれた彼は、凄まじい気迫を持ってこちらを見つめている。
冷ややかな表情の中、彩りを持った両眼に鋭さを感じてぞくり、と背筋が震える。
「…其処の女、お前…名前は」
突然の問に、少しの間が空いて。
苛立った様に眉を顰めた彼に、自分に向けられた言葉だと漸く理解する。
謙信様なら同盟の相手だから答えても問題ないのかな…なんて考えた矢先。
「こちらは、千花様です。縁あって安土に身を寄せておられる、私共のお姫様です」
三成くんが少し怒ったような、しかしいつも通り落ち着いた口調で…そんな風に答えたのに、照れ入る暇もなく。
すっと音も立てず近寄ってきた、謙信様がゆらり、と視線を泳がせた。
そして、私の顔をじっと見ているのに気付く――目を逸らしたくても反らせない圧のような物を感じて、息が詰まる様。