第9章 【石田三成】待てば甘露の日和あり
「千花様、よくお似合いです!」
「あ、ありがと…三成くんも、似合ってるね」
すっかり春めいた陽気に包まれ、桜の花も綻び始めたこの日。
私はと言うと客人を迎えるため、青空の様な水色の晴れ着に身を包んでいた。
それを手放しで褒めてくれる三成くんも、薄紫の肩衣を身につけ、いつもより畏まった装いをしている。
そうして二人して褒め合う私達の横を、これまた正装の家康が見てられないね…と呟きながら、通り過ぎて行った――
今日は、春日山と正式に停戦協定を結び、同盟を締結する日。
まるで天候までそれを祝うかのように、近頃春の曇天が続いていた空も隅々まで晴れ渡っている。
「まだ少し、刻限まで余裕があります。庭の桜を見に参りませんか」
そう言って差し出してくれる三成くんの手を、握り返す…こんなやり取りにも、少しずつ慣れてきた。
皆の前では流石に照れる、と言ってあるから、三成くんも今なら周りに誰もいないと見計らってくれての事。
にっこりと笑いあい、他愛もない話をしながら。
見事な設えの庭園の、奥へ奥へと進んでいく――
「毎年、それは見事な花を咲かせる桜の大木があるのですよ」
「へぇ、そうなんだ」
「千花様と一緒に、見たかったのです。
散ってしまう前に、家康様のお許しが出て安心致しました」