第2章 相模県箱根町 湯本温泉
聖姉さんの側近である津島長政、称号は国司「三河守(みかわのかみ)」。堀越駿河と同じく、十三宮家とは昔からの縁だが、十三宮の威を借り、その力を我欲に悪用せんとしたため、堀越・須崎らと対立し、堀越碧に暗殺されかけたが、当時の聖姉さんに生命を救われ、以後は十三宮教会に協力的である。現在は、旧体制時代の「愛知県」に当たる尾張・三河を支配する軍閥だが、相変わらず堀越駿河とはあまり仲が良くないらしい。稀代のオカルティストでもあり、某所にて「呪術博物館」を運営し、その手の情報に詳しく、人脈も豊富だと言われる。全身火傷を包帯で覆い、漆黒のベールから片目だけを現し、皇帝に対してさえ敬語を使わぬ「黒魔術師」だが、その割に言動は冷静的確で、私達を助けて下さる一面も有する。
「駿河旅団は、アメリカの州兵みたいな『地方公務員』で、堀越さんの指揮で動かせる。その堀越さんは、聖の傀儡よ。そして、伊豆反射砲とかいう新兵器を掌握した今、ここ箱根は無論、小田原もすぐに陥落させられる。ついでに、大森や浦和にも飛び地があるしね。聖、私達はもう既に、東海道の地政学を左右できる勢力なのよ。あとは東京に入城して…」
「それってつまり、姉様が天下を…」
「いえいえ、お姉ちゃんに権力者なんて向いていませんよ…万一それが可能だとしても、私達が覇道に走るべき理由は?法王様を戴く東京国府は、天主(Deus)の義を体現しておられます。この上、無益な戦乱を引き起こしてはなりません」
「だから、将来の話だって言ってるじゃない。今は良いの。でもいつか、動くべき時が来るかも知れない。例えば…東京がクーデターで『誰か』に乗っ取られたりとか?それにね、聖。十三宮の実力に勘付いているのは、何も私だけじゃないのよ。確か生月島(いきつきしま)?平戸の辺りだったかしら…どっかの武装修道会が、私達と接触する機会を窺っているらしいわよ。敵か味方かの識別を含めて、ね」
「はあ…なぜ修道会が武装しているのですか?ヨハネ騎士団ならば分かりますが…」
「肥前って事は、隠れキリシタンかな?じゃあ、姉様と同じような受難を耐え忍んで来たのかも?」