第2章 相模県箱根町 湯本温泉
「軌道上にはまだ、あの小惑星の破片が残っているわ。それが稀に、隕石として地球に落下する事があるの。それの迎撃よ。見た感じ、さっきのも多分そうね。『対小惑星隕石砲』が国連に禁止されたから、その代替よ」
「対小惑星隕石砲」とは、その名の通り、地球に飛来する小惑星や、その破片である隕石を迎え撃つために開発された機構であり、ロケット弾道ミサイル及び電流加速レールガンの技術を集大成したような代物であった。しかし、当時から実用性に疑問が向けられていた上に、水素爆弾などを搭載する事で、極めて非人道的な原子核兵器への軍事転用が可能であるため、国際連盟によって縮小・廃絶の方針が決議されている。なお、往時の日本人民共和国も、対小惑星隕石砲を開発していた国の一つであり、そこにはまた、アメリカ本土を核攻撃するという意図もあったようである。
「…まあそんな感じで、次世代兵器はレーザーみたいな傾向なのよ。それに堀越さんは、ゼロ戦を発明するような親戚の親戚らしいから、反射砲で隕石を撃墜するイデアを国民軍に売り込んで、それを地元に誘致するくらい、不思議じゃないわ。でも、ほかにも目的はあるでしょう…ねえ、聖?」
平和主義者(広義)である聖姉さんは、戦争とか軍事の話に不快感を示す事が多い。当然ながら、そういう方向に話題を誘導したがる勇姉さんに対しては、尚更である。
「勇…私が碧様に『あれ』の裁可を授けたのは、あれが平和利用だと私に約したからです。剣を抜くとは、一言も伺っておりません!碧様は、私の前で己を偽る事などございませんし、魔の邪気も感じませんよ?」
「それは飽くまで、現段階の話。でも、将来的には?伊豆は聖と須崎さんの、静岡は堀越さんの、事実上の領土でしょ?沼津は微妙だけど、どうせ仁に分家でもさせるんじゃない?尾張の津島長政(つしま ながまさ)は少し怪しいけど、まあ今は同盟国ね」