第2章 相模県箱根町 湯本温泉
「…ねえねえ、まだ起きないの?あの…疲れていたら、無理に起きなくても良いけど、早く起きてくれないと、頬っぺたスリスリしちゃうよ^^」
ここは…?ああ、思い出した。往路の交通で無意識に疲労が蓄積したらしく、旅館の客室に着くや否や、布団に倒れたまま寝ていたようだ。すぐ隣には、幼馴染みの十三宮仁が居て、私の顔を楽しそうに見詰めている。同じ和室には、姉の十三宮聖が正座で茶菓子と対峙し、洋室の椅子ではもう一人の姉、十三宮勇が涼んでいる。私は暫く、仁さんの笑顔と無言で見詰め合っていたが、人の心を読める事に定評のある聖姉さんは、私の目覚めもすぐに察したようだ。
「お疲れは取れましたか?夕食まで時間がございますので、お禊ぎに参りたいと思います」
「皆で一緒にお禊ぎする!」
私はもう慣れたが、「国語」あるいは「言霊」とでも言うべき概念に価値を見出す彼女ら…特に聖姉さんは、しばしば回りくどい言葉遣いを決行する。「入浴」を「禊ぎ」に自動変換するのも、その一例である。
「温泉なんて久々ね。着替えの下着はどこに入れたっけ?」
その点で勇姉さんは、良くも悪くも分かり易い言動が平常である。