第3章 東京市大森区 平和島
「あ、はい。それに関してですが、敵方の計画には、連合軍を蝦夷島に集結させた後、核爆発で一網打尽にする焦土戦術が含まれていると、大本営参謀局は解析しております。その手に乗らぬため、あえて戦力を数段に分散し、第一波の会津軍は既に交戦中、第二波の星川軍がこれに続き、兵站は出羽旅団と清水(しみず)様が担っています。また、津軽十三湖には、私達の同胞も参陣している模様です」
「十三湊(とさみなと)…私達安東の、始まりの地ですね」
西宮堯彦(にしのみや たかひこ)(皇帝)・吉野菫(よしの すみれ)(首相)・星川結(執権)らを首班とする日本連合政府は、「恐怖には恐怖を、核兵器には核兵器を」という大国の安全保障理論を批判し、此度の作戦を極力、通常兵器で決着させたいと考えている。もっとも、それは我が国の立場に過ぎず、米英などの国連軍は、戦況次第であらゆる選択肢を検討するだろうし、ましてロシア軍には、大量破壊兵器使用への躊躇など皆無に近い。
「列島規模の、壮大な波状攻撃か…航空支援は?」
「サザンクロス中隊及び旧日共軍が出撃致しましたが、日光戦場ヶ原の上空にて、ラインハルトの奇襲を受け、足留めを喰らっているとか…橘君は、箱館に居るはずなのですが…」
「立花様は異形(いぎょう)の存在、それくらいはするでしょう。しかも戦場ヶ原は、霊峰神話の舞台です。立花様ならば、時間稼ぎのためにも、結界の一つや二つなど簡単に展開しますよ…」
我が友ながら、橘立花は本当に面倒な奴だ。外見は人間だが、その実は不死身に近い生命体であり、仮に逮捕できたとしても、人並みの刑務所になど収容できまい。異世界?にならば封印できるかも知れないが、確証はない。あいつを更生してやれる「理不尽な教育者」が居れば、それが最善なのだが…。
「先陣が各個撃破されない時間差範囲で、後陣を合流させる必要がございますが、空軍の苦戦により、東海から第三波の編成を早めます。堀越駿河は引き続き伊豆SDIの配属ですので、つきましては津島三河に急北上して頂きます。また、大坂の近衛(このえ)家、神戸の宇喜多(うきた)様ら畿内軍残党は態度が不明瞭でしたが、山路香奈(やまじ かな)様によれば先刻応召し、彼らと九州鎮台が第四波以降を形成します。西海の潮流も、随分と変わったようですね…もう、あの日の瀬戸内海には…」