第3章 東京市大森区 平和島
「こちら、空中警戒管制機クリスタロス(AWACS Krystalos)。当該作戦区域内における、トムキャット・ホーネット・ライトニング及び艦載各機の出撃を確認。指揮下の全機に告ぐ、状況を報告せよ」
あれから十年近い歳月が過ぎた。その間、数多の戦乱が勃発し、様々な勢力が台頭し、そして衰亡した。群雄割拠の日本列島が、再び平和を取り戻すのも、恐らくは時間の問題だろう。残る最後の敵は、蝦夷島(北海道)を占領するロシア軍と、彼らに支援された革命政権「箱館コミューン」である。極東ロシア軍は、日露交流のための鉄道敷設という名目で、津軽海峡の青森・箱館間に世界最長級の海底トンネルを建設し、冷戦後も本州侵略の機会を窺っていたのである。更に、国際法・軍縮条約で新築が禁止された、あの対小惑星隕石砲の開発にまで手を染めていた。
「航サザンクロス落合(わたるSouthern Crossおちあい)より全機、戦場ヶ原を突破する!最悪の区域だが、これが最速の近道だ。来たか…前方に敵機影を確認、可変翼を戦闘形態に移行!あれは…ラインハート(Rinehart)?」
対小惑星隕石砲の着弾を阻止するべく、日本各地に地対空ミサイルなどの迎撃システムが緊急配備されている。その中には、二十年近くに及ぶ試行錯誤と、堀越碧の執念によって、遂にレーザー兵器としての実用化を達成した、あの伊豆反射砲も含まれている。南東の羽田飛行場などからは、戦闘機・攻撃機の類が次々と離陸し、蝦夷島での最終決戦に出撃している。勇姉さんは数年前、政府・軍部の実力者に出世した後、政変と内乱の末に帰天した。彼女の平和への遺志を受け継いだ聖姉さんは、今となっては大勢の信徒を抱える教会指導者の一人であり、傷病者の救護や、捕虜への教誨などに奔走している。そして…私の隣にいつも居てくれた仁さんは、もう…。