【YOI男主】僕のスーパーヒーロー【勇利&ユーリ】
第2章 予感と覚悟と現実と
こんな風に彼と共に過ごせるのは、あとどれ位なのだろうか。
昨シーズン、GPFの土壇場で引退の撤回をした勇利だったが、自分との年齢差を考えると、今後同じ氷の上で競い合えるのは、どんなに長くても数シーズンだろう。
膝の故障が原因で競技から引退した純とは違い、彼と同い年の勇利が特別怪我もないのに引退を考えていた理由の1つに、日本人選手が競技を続けて行くのが非常に困難だからとヴィクトルに教えて貰った時には、「毎月の援助が10万ルーブルで必要経費全部自腹って、日本は金持ちの国じゃなかったのかよ」と驚愕した程だ。
(カツ丼の前にジジイが引退するだろうから、こうしてピーテルで一緒にいられるのは、あとちょっとかも知れねぇ…)
シーズンが始まる直前、リンクでヴィクトルが勇利と話しているのを偶然耳にしたユーリは、彼が引退後勇利次第で拠点を再び長谷津に移す事も検討しているのを知った。
確かに、言葉その他の面で不自由を覚えるロシアよりは、温かい家族や友人達のいる地元の方が、きっと勇利には良いのだろう。
だけど。
「ユリオ、お待たせ」
その時、2人分のランチをトレーに載せながら勇利が戻って来た。
思考を止めたユーリは、礼を言って受け取ると一緒に食事を始める。
「成長期は、色々身体が動かなくなったりジャンプの感覚狂ったりするけど、絶対に焦っちゃダメだよ」
「わーってるよ。ヤコフやリリアにも言われ続けて、耳にタコだぜ」
「純も言ってたけど、良いスケーターの条件は怪我をしない事、だからね」
「そういや『サユリ』は元気にしてんのか?」
最近純と連絡を取っていないと思いつつ、ユーリは勇利に尋ねた。
「うん、この間電話した時も元気だったよ。ただ、最近は振付の勉強やノービスの子達の指導で忙しいみたい」
「そっか。まあ、シーズン始まったしな」
言いながら、ユーリはオフシーズンにピーテルを訪れていた純とアイスショーのプロを作っていた時に、成長期をどう乗り越えたのかと訊いたのを思い出す。
いつもの涼しい顔で、純は「成長期始まったシーズンは、成績ボロボロになってもええ位の気持ちで、それこそ1回転から大きなった自分の身体に合わせてったわ」と答えていた。