【YOI男主】僕のスーパーヒーロー【勇利&ユーリ】
第2章 予感と覚悟と現実と
勿論、先を見据えれば純の言い分は正しい。
ユーリも理性ではそれが最善の方法で、今後の自分の為になるのだと判っていた。
しかし、そうしている間にも時間はどんどん過ぎていく。
昔に比べれば延びてきたとはいえ、それでもフィギュアスケーターの競技人生は短い。
ユーリが成長期に合わせた矯正や調整をしている内に、自分より歳上の選手達は、次々と競技の世界から去っていくだろう。
まずは近い将来にヴィクトルが。
そして、その次には──
「…ユリオ?」
声を掛けられて、ユーリは顔を上げた。
こちらを気遣わしげに見つめている勇利から咄嗟に視線をそらすと、「ちょっと考え事してただけだ」と食事を続ける。
その後は食後の運動がてら、大通りを2人で当て所無く散歩した後で別れた。
「今日は付き合ってくれて有難うな」
「うん、また明日リンクでね」
「あ、そうだカツ丼。このシャツ洗って返すから」
思い出したように、勇利に借りたシャツを指しながら言葉を続けたユーリだったが、
「ううん。それ、ユリオに上げる」
意外な勇利からの返事を聞いて、目を丸くさせた。
「…マジでか?」
「最初は、ユリオには大きすぎるんじゃないかと思ってたけど、凄く良く似合ってたから」
「本当に良いのか?後で返せつっても、返さねぇぞ?」
「うん、良いよ」
勇利の温和な笑みと言葉に、ユーリは一瞬口ごもる。
やがて、暫しの沈黙の後でボソボソと言葉を続けた。
「…『アリガトウ』」
「『どういたしまして』」
何処か辿々しいユーリの日本語に、勇利も律儀に日本語で返した。
部屋に戻ったユーリは、買い物の袋を乱暴にベッドの上に投げ出したまま、床に散乱しているサイズアウトした衣服を、廃棄するものと教会等に寄付するものに分けながら、ビニール袋につめていた。
身体の成長次第ではまた直ぐサイズが変わるかも知れないから、今後無闇に買うのは控えようと思いながら、どうにか仕分けを終えると、大量の袋を玄関脇に置く。
そして、ベッドの上の新しい服をクローゼットの中に押し込めた後で、ふとユーリは視線を自室横のラックに移すと、そっと目を細める。
そこには、先日純から譲り受けた黒のストールと、帰宅後速攻で手洗い・脱水したダンガリーシャツがかかっていた。