第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『恋しい甘露』
殆ど中身のない瓶の底に指を入れたユーリは、指先に付着した甘露を口に含んだ。
オフにユーリの親戚が所有するダーチャに礼之が遊びに来ており、その時庭に成っていた数種類のベリーを一緒に収穫すると、お菓子作りが得意な礼之がジャムを作ったのである。
2つの瓶いっぱいに拵えられたミックスベリーのジャムは、1つはダーチャを貸してくれた親戚へ、そしてもう1つはユーリに渡された。
「ついになくなっちまったな」
空になった瓶をシンクへ置きながら、ユーリはボソリと呟く。
礼之の作るジャムは、甘さと酸味のバランスが絶妙で、お裾分けした親戚にも好評を貰っていた。
礼之が帰国した後も、ユーリは毎日少しずつそれを口にしていたが、その度年下の恋人の優しい笑顔と真っ直ぐな想い、そして熱い抱擁が脳裏に甦ってきた。
我ながらチョロいと呆れながらも、ユーリは自分が考えている以上に、礼之の事を恋しく思っていたのだ。
今季のGPSは、2試合とも礼之とバッティングしていないので、互いにファイナルまで勝ち進まない限り直接会う事が出来ない。
「…ま、栄養士やババアに食事管理で説教食らう確率が減ったと思えばいいか」
一抹の寂しさを覚えつつ、ユーリは努めて平静な声をため息とともに吐き出した。
GPSロシア大会に参戦したユーリは、そこで思わぬ人物と再会した。
「何でいんだよ」
「ヤコフに用があって。思ったより元気そうだね」
「てめぇに心配されるほど落ちぶれちゃいねぇ」
「あっそ。じゃあ、コレいらないんだ?」
憎たらしい兄弟子の携えた物に気づいたユーリは、弾かれたように手を伸ばす。
「サムライくんからの預り物、確かに渡したからね。リリア女史に見つかる前に、仕舞っといた方がいいよ」
ウィンクとともにその場を去るヴィクトルには目もくれず、ユーリは袋詰された瓶と、そこに添えられたカードを読む。
『ベリーじゃないけど、林檎が一杯手に入ったから風邪予防も兼ねて。ファイナルで会おうね 礼之』
「…バーカ。俺を肥らせようったって、そうはいかねぇからな?」
言葉とは裏腹に、早速瓶の中身をひと掬いすると、ユーリは心底嬉しそうに笑った。