第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『それぞれの闘い方』
守道は、かつての在ロシアカザフ大使で現在は本国で外務関連を担うマスカエフ氏の誘いで、オタベックとボクシングの試合観戦に出かけた。
「俺も一緒で良かったのですか?」
「何を水臭い事を。守道くんは、我が国の英雄の最愛…最大のパートナーだからね」
「え?」
「始まりますよ」
守道の父親と旧ソ連時代から付き合いのあるマスカエフ氏が、目尻に笑い皺を蓄えながら続けた言葉を、仄かに頬を染めたオタベックが、半ば遮るように声を上げる。
今宵のカードは、元世界タイトル保持者のベテラン選手と、新進気鋭の若手との一戦であった。
試合は終始若手の優勢で、防戦一方のベテランに、もはや勝負は着いたかと思われていた。
「かつての世界王者も、トシには勝てないか。もう決まりだな」
「…いや」
客席から聞こえてきた声に、守道は試合の行方を追いつつ無意識に呟いていた。
「その通り。彼は、勝負を諦めていない」
守道の呟きを耳にしていたマスカエフ氏も、頷きながら僅かに身を乗り出す。
否や、
「あっ!?」
オタベックの驚愕と共に、相手のパンチを紙一重でかわしたベテラン選手が、カウンターを放ったのだ。
的確に顎を捉えたそれに、たまらず若手選手はリングに昏倒する。
ベテランの逆転KO勝ちに周囲が湧く中、守道とマスカエフ氏は、互いに口元を綻ばせていた。
「確かに相手の攻撃を食らっていたが、致命的なものは避けていたし、上手く受け流す事でダメージを軽減していた。そして…」
「終盤を迎え、動きが散漫になってきた新人の僅かな隙きを逃さなかった。ベテランにはベテランの闘い方がある。彼も昔は、あの新人のようながむしゃらなスタイルだったから、判っていたのだろうな」
彼らの会話を耳にするオタベックの脳裏には、とある言葉が印象に残っていた。
シーズンが始まり、オタベックは久々にGPSで優勝を飾った。
年齢・肉体的にもピークを過ぎ、最近では優勝から遠ざかっていたが、今大会では技の完成度を重視した演技が高評価を得たのである。
「おめでとうございます、悔しいけどとっても素敵でした!でも、次は負けませんよ!」
「ああ、ファイナルで会おう」
2位の礼之とハグをかわすオタベックからは、ベテランの風格が醸し出されていた。