第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『新たなステージへ・2』
親しい同年代の仲間は既にプロに転向したり、将来故郷に新たなリンクを作って後進の門戸を広げたい、と各々の夢を語っていたが、今のスンギルにそうした明確な未来のビジョンはない。
自身の為、そして祖国の為だけに競技を続けてきた自分は、引退後は、果たして何をすれば良いのか、何がしたいのだろうか。
「…君の個人的な事情について、口を挟んだりはしいひんけど、わざわざ未来の可能性を君自身が否定する必要はないんと違うか?」
見事なディープエッジでイーグルをする純を目で追いながら、スンギルは唇を引き結ぶ。
「スケートもそれ以外も、道は1つやない。出来る範囲で色んな事に挑戦すれば、新たな道が見えてくるのに…君かて、ホンマは何とかしたくて僕に声をかけてきたんやろ?」
「…」
「僕の振付師としての第一義は、年齢経験関係なしに『素敵なスケート』をする人や。君ならもっと、色んな事に挑戦できると思うてたけど…僕の勘違いみたいやったなあ」
純の細められた黒い瞳と何処か芝居がかった物言いに、スンギルの眉がピクリと動いた。
気弱な青年から謎の剣士へと変身したスンギルの力強さとしなやかさを備えたジャンプに、客席の最前列にいた女性が感動していると、ふとそんな彼女の元へスンギルが近付いてきた。
突然の事に声もなく見つめてくる女性に、スンギルは小さく微笑みながら懐から造花を一輪差し出すと、再びリンクの中央へと戻っていく。
作中、女性を助けた主人公が去り際に花を手渡すシーンを再現した事で、一層女性達から悲鳴にも似た歓声が湧き起こった。
「あのスンギルが、自ら進んでスマイルとファンサービスを!?」
「俺達は今、歴史の生き証人として立ち会っているのだろうか…」
「そんな大袈裟な」
リンクサイドで驚愕するJJとオタベックに、レオは苦笑しながら返した。
スケーターとして新たな挑戦を始めたスンギルは、その後実際のドラマに主人公のピンチを助ける舞踊家の役で特別出演を果たし、
「先越された!?いいもん、僕の目標はハリウッドだから!」と、グァンホンを悔しがらせたという。