第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『キングとサムライ』
東京開催のアイスショーに参加していたJJは、同じく参加者の礼之の姿を見つけると、プロ転向後も変わらぬ滑らかなスケーティングで彼に近付いた。
「お前は菓子作りが得意だそうだな!頼みがあるんだが…」
ほぼ初対面の上、テンション高い彼の声に礼之が困惑していると、JJは更に言葉を続けてきた。
「ヴィーガン対応のスイーツですか?都内なら幾つかお店があると思いますけど」
「俺が知りたいのは、レシピの方だ」
「それも、検索すれば出てきませんか?」
「何だ、得意と言っておきながら、実はそうではなかったのか」
「違いますよ!アレルギー対応のお菓子も作った事あるし!」
思わずムキになって返した礼之は、彼の帰国前の空き時間に付き合わされる羽目となった。
「案外簡単に揃うのだな」
「東京なら食材探しに困る事はないですからね」
感心しながら材料を見つめるJJに、礼之は得意げに鼻を鳴らす。
JJの滞在する旅行者向けサービスアパートのキッチンを借りて、足りない器具を実家から持ってきた礼之は、ヴィーガンの友人に菓子を食べさせたいというJJのリクエストに応えるべくレシピを検索すると、一緒に作り始めた。
「貴方もちゃんと覚えて下さいね」
材料を混ぜながら視線を寄越してきた礼之に、スマホで撮影していたJJは目を瞬かせる。
「この材料ならカナダでも手に入り易いですし、これっきりじゃなくて、今後も貴方がそのお友達に作るなりレシピ教えるなりしないと。だって僕がその人だったら、お菓子は勿論嬉しいけど、何より自分の為にしてくれた貴方の気持ちが一番嬉しいと思うから」
「…なるほど、サムライのアシストによりキングの作るスイーツは、一層輝きを増すという事だな!」
「…え?」
拳を握り力説するJJに、礼之は僅かに口元を引きつらせた。
帰国後のJJのSNSには、「友に捧ぐJJのスイーツ、青い瞳のサムライ風味!」というタイトルで、再現レシピと礼之との動画が公開されていた。
「申し訳ないけど、僕あの人苦手…」
「はっきり『クソうぜぇ』って言っていいぞ」
「…悪い奴ではないのだがな」
羞恥心その他から渋面を作る礼之を、ユーリとオタベックは慰めた。