第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『日韓、スィーツ外交・2』
穏やかな礼之の声と表情は、しかし彼の揺るぎない想いを物語っていた。
「スオミの代表なんて、考えた事すらなかったです。確かに生まれ故郷はスオミだけど、僕は日本人だから」
「…」
「それに、以前僕の尊敬する人が言ったんです。スケートに限らず競技に絶対はない。あるとすれば、競技者皆がその絶対に限りなく近付こうと必死で努力してるだけだって。勝生さんは、今でもその絶対を目指して頑張ってるんだから、後輩の僕も頑張らなきゃ、って」
食べ終えたスィーツの包み紙をゴミ箱に捨てると、礼之は勢い良く石段から立ち上がる。
「今回はスンギルさんに遅れを取りましたけど、次は負けません。日本は勝生さんや南さんだけじゃないって、貴方だけでなくスケート界に思い知らせてやります!」
振り返った『青い瞳のサムライ』の顔を吸い込まれるように見ていたスンギルだったが、やがて何か堪え切れずに息を吐くと、笑い出した。
「え、僕何か変な事言いましたか?確かに、スンギルさんにとって僕は、まだまだ力不足かもしれないけど…」
「すまない、君の発言を笑ったんじゃないんだ。でも君、真面目な顔で話してるのに、口元にホットクの食べかすとブラウンシュガーつけてるから、つい…」
「えぇ、ウソ!?」
スンギルの発言に、礼之は羞恥で顔を赤くさせると、咄嗟にジャージの袖で拭おうとした。
「バカ、汚れるだろう?ナショナルジャージは、特に大切にしないと!」
そんな礼之を遮るように立ち上がったスンギルは、己のポケットからハンカチを取り出すと、彼の口元を拭いてやる。
「有難うございます」
「…君って、面白いコだね」
すっかり毒気を抜かれたスンギルは、礼之の照れ笑いの顔を見つめると苦笑した。
そんな日韓2人のスケーターの姿は、瞬く間にSNS経由でスケオタ中の知れ渡る所となり、「浮気じゃねぇだろうな?」とロシアの恋人からメッセージが届いた礼之を震え上がらせる事になるのだが、それはまた別の話である。