第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『日韓、スィーツ外交・1』
※スンギルの1人称は「俺」にしております。
母国で開催されたアジア大会で優勝を収めたイ・スンギルは、試合その他の緊張から解放された気分を持て余しながら繁華街を歩いていると、何処かから聞き覚えのある声がした。
「美味しい!スィーツ女子のセンサーは、万国共通だよね!」
若い女子達でひときわ混雑している店の前で、焼き立てのホットクを頬張る金髪の少年を見つけると、スンギルは思わず歩を止める。
すると、そんなスンギルの視線に気が付いた礼之が近付いてきた。
「イさん!昨日はお疲れ様でした。お散歩ですか?」
「…ああ」
以前から同年代のJJやオタベック達に聞いていたが、『サムライ』のあだ名に相応しいこの少年の実力は、今回優勝争いをしたスンギルから見ても、侮れないものだった。
しかし、こうして韓国のスィーツを片手に屈託のない笑みを浮かべている彼は、リンクにいる時と比べて随分幼く見える。
「ネットで調べたんですけど、このお店のスィーツ超当たりでした!イさんもどうですか?」
「スンギルでいい。俺は…」
固辞するつもりが、礼之の澄んだ青い瞳を見ている内に無視し辛くなってきたスンギルは、別の店で日本風の団子を1本購入した。
そのまま人混みを避けるように移動すると、石段に腰掛けながらスィーツを食べる。
甘味に舌と心を緩ませながら、スンギルはふと今回の試合の事を考えていた。
必死で優勝とそれに伴う兵役免除を勝ち取った自分と、隣で呑気にスィーツを満喫している日芬ハーフの少年。
何となくモヤモヤした気持ちになってきたスンギルは、少しだけ意地悪な質問をぶつけてみた。
「君は、日本ではなくフィンランド代表で戦おうとは思わなかったの?」
「え?」
「日本は今、勝生勇利という絶対的なエースがいる。対してフィンランドは、有力選手達の引退もあって昨今の層は薄い。君の実力なら、充分あっちでトップを張れると思うけど」
「…」
「それとも、フィンランドは兵役があるから日本にしたの?」
言いながら「こんなの、ただの八つ当たりじゃないか」と内心自己嫌悪に陥りそうになるスンギルだが、返ってきた純の言葉は、至極単純だった。
「だって、僕は日本のフィギュアスケーターだから」