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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『女帝とサムライ』


念願のGPF進出を果たした礼之は、会場でユーリの振付師であるリリアの姿を見つけると、小走りに駆け寄った。
「お久しぶりです。夏のロシアの短期スクールでは、本当にお世話になりました」
オフを利用して、ロシアのリンクでユーリと一緒に過ごした礼之は、あまりバレエ経験がない事から、最低限の基礎と美しい所作をリリア自らの指導によって徹底的に叩き込まれたのである。
「元気そうね。ユーリも、貴方がファイナルに進んだのを喜んでいたわ」
「はい。といっても僕はギリギリでしたけど…でも、折角掴んだチャンスですから、力の限り頑張ります!」
昨季よりも着実に成長しているが、性根が真っ直ぐなのは変わらない『サムライ』を目の当たりにして、リリアは判らない程度の笑みを浮かべる。
「それで、あの…今月クリスマスなので、僕、シュトーレン作って来たんですけど」
この『サムライ』が菓子作りが趣味なのは、オフでの事や以前からユーリに話を聞いて知っていたが、彼がバッグから取り出した妙に可愛らしいラッピングに、リリアは僅かに瞳孔を開く。
「これがレシピと成分表です。グルテンフリーの米粉と、バターと牛乳の代わりにオリーブオイルと豆乳を使いましたから、従来の物よりはヘルシーだと思います」
「何故、私に?」
「ユリに渡す前に、コーチと貴方の確認を取るべきだと思って。シーズン中だからダメかも知れないけど、折角12月にユリと会えるから…」
アスリートへの飲食物の贈り物は、異物混入等の理由から原則禁止されている。
ユーリの成長期が落ち着いてきたとはいえ、普段なら一蹴する所だが、この愚直な『サムライ』の澄んだ青い瞳を見ている内に、リリアは気がつくと口を開いていた。

大会終了後のバンケットで、礼之は無事ユーリにシュトーレンを渡す事が出来た。
「日持ちするから、ちょっとずつ食べてね」
「お、おぅ。でも、何でここの端っこだけ切れてんだよ?」
嬉しさを隠し切れない様子で尋ねるユーリに、礼之は会場の片隅からの視線を感じつつ「その分は、お毒見係さんに渡したから」と答える。
「…全く、菓子同様とんだ甘ちゃんだ」
「でも、だからこそユーリは彼を好きになったのでしょうね」
クリスマスの菓子の食感を舌に残した1組の男女は、若い2人を見ながら苦笑交じりに呟いた。
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