第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『不本意な特等席』
「だって、乗せてくれるんだろ?俺、バイクなんて久しぶりだよ」
守道とタンデムでのツーリングを約束したオタベックは、サイドスタンドを下ろしたほんの僅かな隙に、彼に愛車のバイクを乗っ取られてしまった。
オタベックから受け取ったヘルメットの他に、自前のゴーグルをかけた守道は、オタベックの抗議の視線をものともせず、ハンドルの具合を確認している。
「正直言うと、俺は君にあまりバイクの運転をして欲しくないんだよね」
明らかに機嫌を損ねているオタベックを一瞥した守道は、ボソリと言葉を続けた。
「俺は、危険な運転などしない」
「知ってるよ。でもね、せめてシーズン中は控えて欲しい。いくら君が安全運転に努めていても、万が一って事もあるだろ?車とは深刻度も段違いだ」
理屈では判るものの、納得いかないといった表情のオタベックに、守道は後ろのシートに乗るよう促す。
「バイクの後ろに乗った事は?」
「…最近は殆ど」
「じゃあ、たまには運転手に命を預ける人の気分も味わってごらん」
譲る気のない守道に、オタベックは深い息を吐きながら、渋々言う通りにした。
ぎこちなくシートの後ろに腰を下ろすと、前から守道の手が伸びてくる。
「もっと、ちゃんと膝で挟んで」
「…ふぁっ!?」
「何て声出してんだよ!?」
「貴方がいきなり触るからだ!」
「別に俺、変な事してないでしょ!?」
すったもんだの後でエンジンをかけた守道は、バイクを発進させる。
自分が運転している時とは違ったスピード感に、いつしかオタベックは守道の腰に腕を絡めていた。
身体を密着させる事により、自分の鼓動が彼に気付かれてしまうのではないかと、ヘルメットの中でこっそり頬を染める。
「…何か新鮮だ」
「え?」
「俺、初めてなんだ。教習以外で誰かをバイクの後ろに乗せるの。少し妙な気分だけど…こうした温もりや感触も悪くない」
「もしかして、緊張してるのか?」
「ちょ、どこ触ってんの!」
「貴方の心拍数を確認しただけだ」
掌に伝わってきた心音の速さに、オタベックは小さく笑うと、守道の背に先程よりも身体を預けた。