第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『夏の夜は、大胆』
東京開催のアイスショーに参加していたオタベックは、同じく参加者のユーリや礼之と、宿泊先のホテルのナイトプールで遊んでいた。
「日本の夏はクソ暑いけど、こうした夜のプールってのは悪くねぇな!」
「失念していたが、アレクはまだ高校生ではなかったか?こんな時間まで俺達と一緒にいて大丈夫か?」
「僕、1年遅れで日本の高校に入ったから、もう18になってますよ♪」
ひとしきり3人で楽しんだ後、宿泊客ではない礼之とユーリは一足先にプールを出る。
「今夜は有難うございました。お休みなさい!」
「じゃーな、オタベック」
「あまり浮かれ過ぎて、アレクに迷惑をかけるなよ」
「うるせぇ!べ、別に浮かれてなんかねぇっつぅの!」
「え?ユリは僕の家でのお泊り、楽しみじゃなかったんだ…」
「誰もそんな事言ってねぇだろ…」
今夜のユーリは、広尾にある礼之の自宅に泊まるという。
仲良く並んでプールを後にする2人を見送ったオタベックは、次いで背後から感じた気配に口を開いた。
「遠くから窺っていないで、貴方も来れば良かったのに」
「スケーターじゃない俺が、君らと一緒にいるのは憚られるよ。ユリオくんに色々突っ込まれるのは、君だって嫌だろ?」
密かに同じプールにいた守道が、オタベックの質問に気まずそうに頭をかく。
「俺はずっと、ユーリとアレクの仲睦まじげな様を見せつけられていたのに?」
「怒らないでくれ」
「怒ってなどいない」
馬蹄がデザインされたプラチナブレスレットを着けたオタベックの左手が、水面を軽く叩き、守道に飛沫をかける。
「でも、このままだと俺は今夜、広いダブルベッドで寂しく独り寝の気分になりそうだ」
「…」
そのままプールから上がったオタベックが部屋に戻ろうと足を動かすと、背後から肩を掴まれた。
夜の照明越しに映る守道の真剣な表情に、思わず身構えていると、
「15分程したら俺も上がる。それまでに君は、部屋で香水だけつけて待っててくれ」
ひと息に言い切った守道は、再びオタベックから離れるとプールへと消えていく。
「それだと、部屋のドアが開けられないじゃないか…!」
夜の闇に紛れながら、オタベックの頬は、熱帯夜の暑さに負けず劣らず上気していた。