第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『太さ約0.2ミリのアイアン・メイデン』
大阪でのアイスショーのリハーサルを済ませた純は、控室を訪れた珍しい客に声を上げた。
「センセやないですか、何でここに?」
「近くに用があったからな。京都のお父さん達から、ちょうど今純坊ンがここにおるて聞いたもんやから」
彼は、純がジュニアの頃から世話になっていた鍼灸医である。
特に膝の大怪我をした以降は、彼の鍼治療があったからこそ、試合を乗り切れたといっても過言ではなかった。
「あれから膝の具合はどうや?」
「手術してだいぶ楽になりましたわ。流石に競技時代のような無茶は出来ひんけど」
「それでもショーとかで滑っとんのやったら、定期的に受けた方がええで。何なら大阪の知り合いに紹介状書くから」
「おおきに」
暫し鍼灸医と話をしていた純は、疲労と多少の寝不足からできた目元の隈を指摘される。
「お客さんの前で、そんなくたびれた顔して滑ったらアカンやろ」と言いながら、彼は懐から何かを取り出した。
「ついてくんなよ!」
「つれないな、控室が同じなだけじゃないか。全く少しは成長したかと思えば…」
「うっせぇ!そもそも俺とお前は、根本的に合わねーつってんだろ!」
ユーリと現在はプロに転向したJJが、軽口を叩きながら控室のドアを開けると、信じられない光景に出くわした。
「ひっ!?」
「サ、サユリ!?」
2種類の英語の悲鳴に純は内心で困惑するも、椅子に腰掛け、目を閉じ頭と顔に結構な量の鍼を打たれている今は、動く事も話す事も出来ない。
「JJ、昔漫画で見た事あるぞ。脳みそを針で捏ねくり回して、無理矢理情報聞き出すヤツ…」
「嫌だ!サユリ、死ぬなあああ!」
「アホな。人間の頭蓋骨は頑丈やし、第一鍼が脳まで届く訳ないやろ」
鍼灸医の言葉も耳に入らないのか、JJとユーリは互いに抱き合いながら喚き続け、更にユーリ達の悲鳴を聞きつけた他の外国人スケーターが入室する度に、同様の叫び声が轟く。
数分後。
鍼の効果で血行が良くなった筈の純の顔は、何故か治療前よりも疲れ切っているように見えた。
※多分、その日のスケーター達のSNSは、主人公の頭部と顔面鍼治療の画像がぶっちぎりトップ。