第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『柔軟?な姿勢』
「柔軟性が全てやないで。それだけなら僕は勇利にもデコにも勝つ自信あるし。世界タイトル取った事もある僕と勇利の大先輩は、有名なバレエダンサーから『貴方、よくその柔軟性で世界一になれましたね』て驚かれてた位や」
「それでも、ないよりあった方が良くないか?」
新たなシーズンに向けて、自分の引き出しを増やそうとするも、柔軟性が少々ネックなオタベックは、ロシアでのアイスショーで偶然勇利とユーリのEX作りの為に彼らに同行していた純に、女性らしい表現について尋ねてみた。
「否定はしいひんけど、男子はそれ程気にせんでもええんと違う?女子にもそんな身体柔らかくないけど、上体の使い方や姿勢の綺麗さでカバーしとる選手もおるし。…でも、世界レベルの選手やのに、こうして僕なんかに相談してくれるオタベックくんの柔軟な姿勢は、好きやで」
「サユリはなんか、じゃないさ。振付師としての活躍はカザフにも聞こえて来るし、ユーリも事あるごとに『サユリは俺の恩人だ』と言っている」
「光栄やな」
その後は、オタベックの振付を崩さない範囲で一緒に試していった。
「女性的な仕草は、何よりも手の形と動きや。指先まで意識を集中させてみて」
仕事でもないのに親身になって説明する純の姿に、オタベックは口元を緩める。
「感謝する。あと…サユリが男で本当に良かった」
「?まあ、こういうんは女の子相手やと訊き難いかもな」
「それもあるが、もしもサユリが女だったら…たとえ恋人がいても奪い取ろうとしたかも知れない」
「…あら、情熱的。せやけど僕、年下は範囲外やねん」
冗談とも本気ともつかぬ言葉を、純はやんわりとかわし、オタベックも何事もなかったかのようにターンをする。
そんなオタベックの背中を暫し眺めていた純だったが、彼に近付くと両手を伸ばした。
「肩甲骨の可動域は悪くないから、ストレッチ増やすのは…」
「…ふンわっ!?」
純の指がオタベックの背に食い込んだ瞬間、無防備過ぎる悲鳴がリンクに響き渡る。
「か、堪忍!まさかそこまで驚くなんて…」
慌てて謝罪する純に、『カザフの英雄』は心底恥ずかしそうな顔で恨みがまし気な視線を送っていた。