第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『犬バカGPS・日本大会』
日本のアイスショーに招かれたイ・スンギルは、前日練習を終えて滞在先のホテルに戻ろうとしていた所を、呼び止められた。
「落とし物やで。これ、君のやろ?」
そう言って渡された愛犬とのツーショット写真を、スンギルは礼を言って受け取る。
「ホンマかわええなぁ。この犬種は気難しいコが多いけど、よう躾けられててご主人の事が大好き!いうのが写真からでも判るわ」
「…犬、好きなの?」
「うん、僕も昔飼ってたから」
愛犬の事を褒められて悪い気はしないので、スンギルは目の前の日本人青年に小声で尋ねる。
「純、お疲れ様。ちょっと訊きたい事が…あれ?スンギルくん」
「勝生勇利…」
「なあなあ勇利、この子のワンちゃんもめっちゃかわええんやで」
「スンギルくんも犬飼ってるんだ?あ、ホントだ可愛い!」
「アリガト…」
いつしか3人でそれぞれの犬談義となり、スンギルの愛犬が幼少期に大病をした話にはハラハラし、勇利の愛犬『ヴィっちゃん』との出会いと別れにしんみりし、純のスケート再開を見届けるように亡くなった『あおいちゃん』との最期の日の話題に至っては、当の純だけでなく勇利どころかスンギルまで涙ぐんでいた。
「こんなにヴィっちゃんや犬の話したの、随分久しぶりかも」
「ええ話ぎょうさん聞かせて貰うたわ♪スンギルくんも付き合うてくれて、おおきにな」
「別に…楽しかったから」
素っ気ないが、話す前よりも表情と声が柔らかくなっていたスンギルを、純は興味深げに見た。
無事にショーを終えた翌日、スンギルは純から思わぬプレゼントを渡された。
「この間、僕らに付き合うてくれたお礼や」
包みから出てきたのは、スンギルの飼い犬を模した小型の抱き枕だった。
くったりとした姿勢で目を閉じたデフォルメ犬の抱き枕を、スンギルは無言で見つめる。
「あ、ひょっとして気に入らんかった?」
「…ううん、肌触り良いね。有難う」
そう言って抱きかかえるスンギルに純は胸を撫で下ろしていたが、そんな彼が密かに口元を綻ばせて犬のしっぽ部分をピコピコ動かしているのを認めると、心中でガッツポーズをした。
その後、遠征などで移動するイ・スンギルが、小脇に犬型の抱き枕を抱えている映像や画像が度々見かけられるようになったという。