第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『相思相愛なコンビ』
かつて南健次郎が全日本ジュニア選手権で優勝した時、ふとリンクの片隅でベソをかいている1人の少年を見かけた。
年恰好からしてノービスからの推薦選手だろうか。
金髪に青い瞳というまるで人形のような風貌の少年に、競技会での彼の演技を思い出した南は、ジャージのポケットからハンカチを出しつつ彼に声をかけた。
「…あーゆーオーライ? あいうぉっちど、ゆあスケーティング。おんりーゆありざるとわず、あんふぉーちゅねいと、ばっど…」
「結果は残念やったけど、君の頑張ったいう事実はずっと残るし、おいも忘れん。だから元気出そう」という内容をつたない英語で話した南に、少年は鼻を啜ると、涙に濡れた青い瞳を真っ直ぐに向けてきた。
「Thanks.but…僕日本人ですから、『日本語でおk』ですよ?」
「あれ?か、堪忍!それは大変失礼を!」
「ううん、嬉しかったから。確か南さんですよね?優勝おめでとうございます。僕は、伊原・アレクシス・礼之です」
「ミドルネームばあるとですか!?試合で君が挑戦してた3Tと同じくらいカッコよか~!」
「え?」
「なあなあ、君んこつ『アレクくん』て呼んでもよか?」
「…はい!」
差し出された南の手を、礼之は泣き笑いの顔で握り返した。
「代表発表の待ち時間は、長かねぇ」
「長いですよねぇ」
全日本の競技を終えてほぼ内定しているとはいえ、各種目の代表選手の選考を待つ間、南と礼之は待機室にいたのだが。
「…礼之くん。健坊は年上なんやから、そろそろ膝に乗せるのやめなさい」
「アレクくんが重くないなら、おいは別に構わんのですけど」
「全然平気です。だって僕が小さい頃は、南さんがこうやって良く膝に乗せてくれたから」
互いの事を「もしもこんなスケート上手でイケメンな弟おったら、何でも好きなもの買うてあげたい」「こんな可愛くてスケート上手な人がお兄ちゃんだったら、毎日お弁当とお菓子作って近所や学校の友達に自慢しまくる」と豪語する2人は、本当に仲が良い。
「まあ、僕も君らが可愛いのは認めるけど…国際大会でそれやったら絶対あかんからな」
純の苦言に、2人は何が悪いのかとばかりに小首を傾げた。
※「…別に妬かねぇよ。だってあいつら、仔犬同士がじゃれ合ってるようなもんだろ?」とはユリオ談。
