第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『サムライ限定、墨塗り?ヤンキー』
お菓子作りと並んで、礼之の意外な特技に書道がある。
特別級や段は持っていないのだが、書道の先生だった日本の祖父から直接教わっていた事から、サインやTV出演等のフリップボードでの達筆さは、自身の容姿とのギャップも合わさり一部で有名になっている。
「なんて言うと聞こえが良いけど、自分の金髪が大嫌いだった幼い僕が、お祖父ちゃんの部屋で墨汁をかぶったのが本当の経緯。そうすれば普通の日本人のような黒髪になれるって、馬鹿みたいに信じてたんだ」
髪どころか全身や畳を墨塗れにしながら、書卓の前で泣き続けている孫に、祖父は厳しく叱る事はしなかったが、理由を尋ねた後で「自分自身に誇りを持ちなさい」「本来の墨の使い方を覚えなさい」と、礼之に書道を勧めてきたのである。
「当時は両親が仕事や研究で忙しかったから、エスポーでも日本でも、僕と妹はそれぞれの祖父母に育てられたようなものなんだ。僕がお菓子作りが好きなのも、日本のお祖母ちゃんから『礼之ちゃん、一緒に日本のお菓子を作りましょう』って、誘って貰ったのが切欠だし」
「良い祖父ちゃんと祖母ちゃんだな」
「うん」
「…なのに何で、その孫はこんな変態のエロ侍になってんだよ!」
「聞き捨てならないなあ。僕がエロくなるのは『ユリ』限定なのに」
太字の筆ペンを構える礼之の吐息が内腿を掠め、ユーリは短く息を呑む。
「キスマークは嫌だっていうから、こっちの方法考えたのに。前回の背中じゃないから、見つかる心配少ないでしょ?万が一見られても、ロシアでなら漢字タトゥーで誤魔化せるし」
「痕をつけないって選択肢はねぇのかよ!?」
「ノー、ニェット、Ei.ないです」
「…わざわざ4ヵ国語でありがとよ」
「幾ら墨でもいずれは消えちゃうから。それでも出来るだけ僕の痕が、ユリの身体に残ってると嬉しい」
「お前、そんな風に言えば俺が折れると思ってんだろ?」
「だって、ユリは僕に甘いから…あ、それとも今一部で流行ってる脇の下タトゥー風にした方が良かったとか?」
「それやったら、マジで蹴り入れるからな」
「今足振り上げたら、さっきの僕のアレが漏れちゃうよ…って、危なっ!」
かくてユーリの白い右の内腿には、「礼之書」という墨の痕が暫く残る事になる。
