第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『好きじゃなくてもいい・1』
「また無視をしてしまった」と内心の気まずさを覚えながら、礼之はリンクを出る。
日本に拠点を移してから、礼之は都内のリンクで日々練習に明け暮れているが、そこで時折一緒になる1人の選手に対して、苦手意識のようなものを覚えていた。
最低限の挨拶はするがそれ以外では極力接触を避け、稀に彼や彼のコーチぐるみで食事などに誘われても、固辞を貫いているのだ。
「何か礼之くんて、貴方にだけ妙に素っ気ないわね」
「…いいんだ。多分、俺のせいだから」
礼之より3つ年上のその選手は、かつて純の現役最後の試合でもあった全日本選手権の抽選会場で、勇利に対して聞こえよがしに暴言を吐いた人物だった。
同じ選手に対する礼儀も、国を背負って立つ先輩への敬意の欠片も無い行為に、当時強烈な嫌悪感を覚えた礼之は、あれから3年近く経った今でも彼に対して良い感情を持っていない。
以前より技術が向上し、またかつての未熟な性格や言動も多少改善され、今や東日本ではトップクラスとまで言われている彼と、時折遠征や国内の大会に派遣される事が増えてきた礼之は、このままではいけないと思いつつも、どうしても彼への負の感情を拭い切れないでいるのだ。
とある国際大会への派遣が決まった礼之だったが、またしても彼と一緒である事を知ると、堪らずユーリにボヤキのメッセージを送った。
「そっちの夜になっちまうけど、電話する」と返事を貰った礼之は、指定の時間までにすべての用事を済ませると、恋人からのコールを待つ。
一頻り愚痴ってしまった礼之だったが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「何でお前が、いつまでもそいつに怒ってんだ?」
「だって、勝生さんや純さんにあんな失礼な真似…」
「でもそいつ、その大会でしっぺ返し食らった後でカツ丼達にも詫び入れたんだろ?お前が直接そいつに何かされたんならともかく、当のカツ丼やサユリは許してるのに、お前がいつまでも怒ってるのって変じゃね?」
的を得たユーリの質問に、礼之は言葉を詰まらせた。
「…『ユリ』は、僕が間違ってるって言いたいの?僕の気持ちを押し殺してでも、彼を好きにならなきゃダメ?」
「別に好きになる必要はねぇよ」