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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。


『アイスドールの素顔』


「安心し。僕にとっては競技人生にあるかないかの大ラッキーで、逆に君にとっては、1%にも満たないmalchanceux(アンラッキー)だっただけや」
表彰台の一番高い所に立つ日本人の少年が、流暢なフランス語で囁いてくる。
優勝候補と言われ試合に臨んだJGPSで、クリストフ・ジャコメッティは、伏兵とも呼ぶべき日本人選手に思わぬ敗北を喫した。
時折試合で対戦している勝生勇利でもない全く無名の選手に土をつけられたクリスは、抑えきれない悔しさをその顔に滲ませていたが、表彰台の隣からかけられた至極冷静な声に我に返った。
少しだけ顔を動かして声の主を盗み見ると、試合の時同様まるで『アイスドール』のように、冷静沈着な少年の黒い瞳とぶつかる。
一瞬だけ身構えたクリスだったが、その瞳が殊の外穏やかな色をしているのに気が付くと、口を開いていた。
「また、君とも戦えるかな?勇利みたいに」
「さあ…僕は勇利くんの足元にも及ばんから、多分これっきりやろなあ」
勝者には余りにも相応しくない言葉をさらりと紡いだ後で、『アイスドール』は優しく微笑んだ。
少年の言う通り、シニアに上がってからクリスが彼と試合で対戦する事はなかった。
ある時勇利に尋ねてみた所「彼は怪我をしてしまった」と言葉少なに、だが二度と競技者として会えない旨を示唆する返事が返ってきたのだ。

「スイスは物価が高いねん。ファーストフード1回入るだけで千円て、ぼったくりやろ」
「スイスではマックはご馳走だから。…冗談はさておき、別に物価だけが高いんじゃなくて賃金も相応だからね」
「マックやない、マクドや!」
「拘るトコそこ?」
ある時、親友のヴィクトルとジャパンナショナルについて話をしたのが切欠で、クリスは再び純に出会った。
ヴィクトルから「アイツのどこがアイスドールなんだよ!」と散々文句を言われた通り、一見冷徹そうな彼の予想以上に興味深い内面を知る事になったのだ。
「僕のはただのやせ我慢や。あの試合も、ホンマは心臓バクバクやってんから」
「あれで?君ってどれだけ役者なの」
「氷は融けたら脆いねん。せやから必死で固まっとかんと」
「でも、おヒゲの恋人の前では融けるんでしょ?」
「…デコおぉ!クリスに何吹き込んどんねん!」
直後顔を真っ赤にして怒鳴る純を、クリスは可愛いと思った。
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