第3章 僕と「はじめまして」や、その他諸々。
『血は水よりも?』
ロシアで開催されたアイスショーに妹のサーラ共々出演者として招待されていたミケーレ・クリスピーノは、今年からピーテルに拠点を移した勝生勇利に話しかけている彼女の様子を、複雑な顔で見つめていた。
「相変わらず、お兄ちゃんは心配性やなあ」
「…上林か。ジャッポーネの『アイス・ドール』。久し振りじゃのう」
故障前に多少面識があったので、ミケーレは少し驚きながらも純に好意的な視線を向けてきた。
「昨シーズンのジャパンナショナルは、ワシも動画で観たぞ。最後の最後でエエ演技をしたな」
「有難う。今回は、勇利とロシアの小さな英雄の振付師として参加させて貰うとるわ」
そうこうしている内に、純達に気付いた勇利とサーラが近付いてきた。
「純じゃない、久し振り!勇利から聞いたわよ!いよいよ世界的に振付師デビューね」
「サーラも、僕の事覚えててくれたんか」
「もっちろん♪だって純の事は、ロシアのミラから色々情報が入って来るし。何でも、ヴィクトルと勇利を巡って正妻と愛人の関係なんですって?」
「ちょっとサーラ!何言っちゃってるの!?」
「…そこだけは謹んで訂正させてくれるか」
「勇利ー♪こんな所にいた」
「何やら同年代が集まって、楽しそうじゃないか」
やがてヴィクトルとクリスも加わって、ひとしきり会話に花を咲かせていたが、ふとスマホのディスプレイを見ていた純の表情が目に見えて変化したのに気付いた勇利は、彼に尋ねた。
「どうしたの?」
「今、実家から姉ちゃんのお産が始まったって。僕、もうすぐ叔父さんになんねん!」
商売をしている純の実家は、姉と結婚し婿になった義兄が後継ぎとなっている。
「男女どっちか判ってるのかい?」
「医者のセンセの話では、ほぼ十中八九女の子やて」
「無事に生まれるといいね」
「女の子なら、純みたいなオリエンタル・クールビューティーになるのかな?あ、何かちょっとエキゾチックでお近づきになりたいかも♪」
「──僕の姪に手ぇ出そうとしたら、京都の街どころかこの世を歩かれへんようにするからな」
「…お前もワシの事言えるんか」
クリスにドスの利きまくった声で凄んだ純を見て、ミケーレは呆れた顔で呟いた。