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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第2章 僕とおそロシア


『素直じゃないダチ』


バレエスタジオから退出した純は、壁伝いにヨロヨロと歩き続けていた。
見学するだけの筈が、何の気まぐれか突如リリアに予備のバレエシューズを手渡され、レッスンの参加を命じられたのである。
「これはスケーターの為のレッスンだから、相当加減しているのよ。現役を退いたとはいえ、貴方は今もショーで滑っているのでしょう?」
ミナコによって始めからバレエの基礎と技術が完成されていた勇利と違い、現役時代もフィギュアの為にしか嗜んでこなかった純は、リリア自らの容赦ない指導に己の怠慢さと心身の緩みをこれでもかと痛感させられた結果、どうにかやせ我慢を貫き通す事には成功したものの、もはや疲労困憊の身体は持ち主の思い通りには動いてくれず、やがて人気のない階段の踊り場で坐り込んでしまった。
自分の身の程は理解しているつもりだが、それでも言いようのない悔しさや情けなさに唇を噛み締めていると、ふと純の頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
「あのリリアのシゴキを受けたのに、ここまで自力で戻ってこれるなんて大したもんじゃないか」
「何や。僕の無様な姿を笑いにでも来たんか」
「そんなになっても強がる所がお前らしいけど…ホラ、」
自分の前に背を向け片膝を着いたヴィクトルに、純は思わず面食らう。
「グズグズしてたら、誰かに見られちゃうかもよ」
その言葉に、純は渋々その身を彼の背に預ける事にした。
己の醜態ぶりに、益々惨めな気持ちになってきた純の耳に、殊の外穏やかな声が届いた。
「昔俺も初めてリリアのレッスン受けた時は、途中で引っくり返って起き上がれなくなったものさ。でも、お前は最後までやり遂げた。以前リリアがお前の事を『面白いものを持っている』って言ってたよ。彼女が『美しい』の次に相手を認める時の言葉だ」
「…」
「だから、お前ももう少し自信持っていいんじゃないの?ま、俺と勇利には及ばないけど…って、ん?」
話しながら歩いていたヴィクトルは、背中の重みが増すのを感じる。
「寝たの?全く…珍しく褒めようとしたらこれだよ」
ブツクサいいつつも歩を進めるヴィクトルの背中では、純が必死に涙を堪えながら眠ったふりを続けていた。
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