第15章 誕生日譚~前哨
佐奈が口にした『企み』という言葉を、今度は自ら使って見せる彼に呆然とする。
今日はこれで終わりだと思っていた。
後は家に帰るだけ。
佐奈は、そう思っていたのだ。
今日はもう、今からではお祝いの支度もできそうにないが、明日には彼の好きなものをたくさん作ってあげよう、なんて思っていたのに。
そんな佐奈の考えは、更に裏切られることになるらしい。
「さ、最後まで…って??」
「心配しなくても、何も悪さはしないよ?」
悪戯っぽく囁く彼に、佐奈は噴火した。
「そ、そんなこと、誰も言ってないでしょー!」
真っ赤な佐奈を斜め下に見て、煉は声を立てて笑う。
「『悪さ』って、今、何を想像したの?」
笑って、わざとそんな風に彼女をいじって、更に噴火させる。
その傍ら、煉は握った拳を陰に隠した。
(悪さ…か……)
そんなもの、出来るものならとっくにしている。
佐奈が大切だから…傷つけたくないから、何より…彼女の心を失くしたくないから、自制しているだけだ。
(佐奈は…何も知らない……)
隣を歩く男が、自分をどんな目で見ているか…なんて……。
「このすぐ傍だからね」
「え?え?」
何が何やら、またも固まりかける佐奈の手に、再び煉のそれが重なる。
これくらいで緊張してどうする、と煉は心の中で自分に毒づくものの、何度触れても、やっぱり……。
(小さくて…柔らかい……)
自分より小さくて柔らかい彼女の手に、どうしても意識してしまう。
でも、ここで自分が動揺した素振りを見せたら駄目だ。
幸か不幸か、煉は感情そのままに表情を崩すことがあまりない。
お陰で何を考えてるのか分からないと言われ、まあ、お世辞にも楽しいとは言えない過去もあったが、これが自分の性格なのだから仕方ない。