第15章 誕生日譚~前哨
偶然、手が触れた時、彼女の気配をいつも以上に身近に感じた時……。
近づきすぎたら…あんまり触れたら、暴走しそうな自分が分かるから、だからいけないと思う一方で、偶然触れた手…掠めた温もりに、もっと触れていたくて、近くにいたくて…離れがたくて……。
相反する感情に揺さぶられながら、何もなかったように佐奈から離れる…けれど、つい、彼女の手にいつもより長く触れたままだったり…なんてことをしてしまう近頃の現象は、既に一度や二度じゃない。
そんな時、いつもと違うと気づいたらしい彼女が、ふと見せたことのある表情……。
困ったように視線を泳がせて、でも、そのすぐ後にはそれを打ち払うように何でもなさそうに話しかけてきたりして。
そうして今日まで来たけれど。
家で何度か見た、あの表情に、今の彼女は……。
(ちょっと…似てる)
家での時より、今の方が格段に彼女の顔は真っ赤だし、動揺しまくっているのが分かる。
少なくとも、それが怒りによるものでないことは察することができた。
(それは、分かるけど……)
この展開を彼女が怒っていないのは確かに幸い、ではあるのだが。
でも……。
(これって反則じゃないの、佐奈?)
人間年齢換算としては自分の方が上だ、と、いつか煉は佐奈に言ったことがある。
何かの拍子に、佐奈に年下扱いされるのが嫌で言ったそれは、嘘なんかじゃない。
成体である狼の自分を人間年齢に置き換えた今の状態は、佐奈より幾つかだが年上に相当する。
でも…実際に生きた年数は、といえば、それはやはり佐奈の方が多い。
これは狼と人間の寿命の相違によるものだから、どうしようもないことだが。
『私だって大人なんだからね!』
可愛いね、とうっかり(煉的にはわざと)からかったりするたびに、そんな風に目くじらを立てる佐奈。
自分の方が長く生きてるんだから、と頬を膨らませて訴える様は先生然とはとても見えないが、煉の目にはそれが堪らなく可愛く映る…なんて、彼女は何も知らないし、分かっていない。